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運動方程式の立て方(実践編)— 力を書き、束縛条件で閉じる

2026.06.07

運動方程式と束縛条件を「連立させれば必ず解ける」形で立てる方法を、動滑車・斜面・可動台・加速する滑車の例題と、座標の取り方・慣性力まで通して解説する発展編。

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これは 運動方程式と束縛条件 の発展編。あちらで述べた「物理を解く=モデルを数式に写すこと」を、実際の問題で最後まで通せるように、手順と例題でまとめておくよ。少し長いけれど、ここを越えると力学の問題で迷わなくなると思う。

この記事でできるようになること

  1. 物体ごとに力を書き出して、運動方程式を立てられる。
  2. 糸・斜面・可動台などの束縛条件を、式にできる。
  3. 座標の取り方を変えても、同じ運動を表せると分かる(慣性力まで)。

読む順番

運動方程式を立てる手順

やることは、いつも同じ4ステップだ。

  1. 物体ごとに、はたらく力をすべて書き出す。
  2. 物体ごとに加速度の向きを自分で決め、大きさを文字で置く。できれば先に座標を取る。
  3. 加速度の向きに力を分解し、F=maF=ma に入れる。
  4. 問題の状況から束縛条件(加速度どうしの幾何的な関係)を探す。

ポイントは、運動方程式だけでは未知数が足りないことが多く、最後を閉じるのが束縛条件だということ。

さまざまな力

力には、その場で大きさが決まるものと、束縛条件まで考えないと決まらないものがある。この2つを分けて意識するのが大事だよ。

すぐ大きさが定まる力

自然長からの伸び x に比例した力 kx。ばねの両端にはたらく

2物体が同じ大きさで互いに引き合う万有引力

束縛条件まで決まらないと大きさが分からない力

ピンと張った糸は、両端から内向きに張力 T を及ぼす

定滑車。糸の張力はそのまま両側に伝わる

動滑車。両側の糸の張力と、中心にかかる力がはたらく

接触面では、物体側と床側の両方に垂直抗力 N がはたらく

これらは「力」ではなく状況(張り具合・接触)で決まるので、運動方程式だけでは数が足りなくなる。そこを埋めるのが束縛条件だ。

具体例1:定滑車+動滑車

次の装置で運動方程式を立ててみよう(滑車は質量なし)。

定滑車と動滑車を含む装置。左の質量 m と右の質量 M が1本の糸でつながれている

まず加速度を仮定する。図と式が合うように、小物体 mm は上向きに加速度 aa、動滑車側の物体 MM は下向きに加速度 AA とする。

m は上向きに加速度 a、動滑車側の M は下向きに加速度 A と置く

次に張力と重力を書き込む。動滑車には糸が2本かかるので、中心を引く力は 2T2T になる。

各物体に張力と重力を書き込む。動滑車には糸が2本かかり、中心を引く力は 2T になる

加速度と同じ向きの力を正、逆を負として立てると、

ma=Tmg,MA=Mg2Tma = T - mg, \qquad MA = Mg - 2T

の2式。これだけでは未知数 a,A,Ta, A, T の3つに対して式が2本で、足りない。

束縛条件

伸びない糸や変形しない斜面があると、運動方程式だけでは解けない。接触力(張力・垂直抗力)という未知数が増えるからだ。それを閉じるのが「糸が伸びない」「面が変形しない」という幾何の条件 ── 束縛条件だよ。

具体例1で考えよう。動滑車を AA だけ動かすには、糸が伸びない以上、その2倍を引かなければならない。

動滑車の束縛条件 a=2A
動滑車の束縛条件:糸が伸びない → a = 2A

だから

a=2Aa = 2A

これで未知数3つに式3本。連立すれば解ける。運動方程式と束縛条件を「セットで立てれば必ず閉じる」というのが、この章で一番伝えたいことだ。

🔬 ラボで確認運動方程式ラボ でこの例を作ると、運動方程式2本だけでは未知数が1つ残る。束縛条件 a=2Aa=2A を足した瞬間に自由度が 00 になって、運動が決まるのが見えるよ。

いろいろな束縛条件

束縛条件は、適当な座標を置くと見つけやすい。

定滑車をはさんだ2物体。位置 x₁, x₂ の和が一定で、加速度の大きさが等しくなる

固定斜面上の物体は y=x tanθ の線上にしかいられず、斜面に垂直な加速度が 0 になる

動く斜面台。台の端 X(t) と小物体 (x(t),y(t)) の関係を2回微分すると加速度の束縛が出る

例題1-1:固定斜面上のばね

動かない斜面の上に、ばね(伸び xx)でつながれた質量 mm の物体がある。

固定された斜面の上に、ばね(伸び x)でつながれた質量 m の物体が乗っている

解法2:斜面に平行・垂直な軸で

斜面に沿って動くので、平行・垂直に軸を取るのが素直だ。

物体だけを取り出すと、重力 mg・ばねの力 kx・斜面の垂直抗力 N がはたらく

斜面上のばね:重力を斜面方向と垂直方向に分解
斜面上のばね:力の分解(重力を斜面方向・垂直方向へ)

斜面に垂直な向きには動けない(めり込まない・浮かない)ので、束縛条件は

a=0a_\perp = 0

これと運動方程式から、

a=gsinθkxm,N=mgcosθa_\parallel = g\sin\theta - \frac{kx}{m}, \qquad N = mg\cos\theta

解法1:水平・鉛直な軸で

同じ問題を、水平・鉛直に軸を取り直して考える

水平・鉛直軸での力の分解。束縛条件は「加速度が斜面方向」になる

水平・鉛直に軸を取ると、束縛条件は「加速度が斜面方向」= ay=axtanθa_y = a_x\tan\theta の形になる。代入して解くと、鉛直方向の加速度は

ay=gsin2θkxmsinθa_y = g\sin^2\theta - \frac{kx}{m}\sin\theta

となる(ばねの項が残るのを忘れないこと)。どちらの軸でも同じ運動を表す。斜面方向に分解すると垂直抗力 NN が斜面方向の式に現れず、束縛条件を表に出さずに済む ── これが「斜面方向に分解せよ」と習う理由だよ。ただ実用上は、束縛条件がある前提で解けないと「どう分解すればいい?」と迷う。運動方程式と束縛条件を連立すれば解ける、と構えておけば迷わない。

例題1-2:可動な斜面台

なめらかな床の上に質量 MM・傾角 θ\theta の斜面台、その斜面に質量 mm の小物体を乗せて静かに離す。台は右へ AxA_x、小物体は左へ axa_x・下へ aya_y で動き出す。

なめらかな床の上の斜面台 M と、その斜面に乗せた質量 m の小物体

台は右へ加速度 Aₓ、小物体は左へ aₓ・下へ a_y で動き出す

小物体には台から垂直抗力 NN がかかる。

可動斜面台:小物体への垂直抗力 N・重力 mg と、小物体の加速度・台の加速度
可動斜面台:小物体は左下へ、台は右へ。垂直抗力 N とその反作用

小物体だけを取り出すと、重力 mg と斜面からの垂直抗力 N がはたらく

小物体の運動方程式(水平・鉛直):

max=Nsinθ,may=mgNcosθm a_x = N\sin\theta, \qquad m a_y = mg - N\cos\theta

次に台。反作用 NN を受けて水平に動く。

台だけを見ると、小物体からの反作用の垂直抗力 N を受けて水平に動く

力の始点をそろえて、台にはたらく力を水平方向に整理する

MAx=NsinθM A_x = N\sin\theta

これで運動方程式が出そろう。あとは束縛条件。

束縛の幾何:小物体は斜面に沿うので、縦の動き a_y と横の動き aₓ+Aₓ が tanθ で結ばれる
束縛の幾何:a_y = tanθ (aₓ + Aₓ)

台は床にめり込まないので Ay=0A_y = 0。小物体は斜面から離れないので、相対的に斜面に沿う条件

ay=tanθ(ax+Ax)a_y = \tan\theta\,(a_x + A_x)

が立つ(座標を置いて2回微分しても同じ)。

座標で見る

運動方程式と束縛条件を連立して垂直抗力を解くと、

N=mMgcosθM+msin2θN = \frac{mMg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}

コピー用: N = m M g cosθ / (M + m sin²θ)

(途中、小物体の鉛直加速度は ay=gNmcosθa_y = g - \dfrac{N}{m}\cos\theta。質量は mm で、MM と取り違えないこと。)

検算の小技MM \to \infty とすると NmgcosθN \to mg\cos\theta で、固定斜面の結果に一致する。θ0\theta \to 0NmgN \to mg。極端な値を入れて既知の答えに戻るか確かめると、ミスに気づける。

🔬 ラボで確認:可動台では、力の式だけでなく「斜面から離れない」という幾何の束縛がないと解けない。ラボ で束縛条件を外すと、破綻した運動が“合法”になってしまうのも確かめられるよ。

例題1-3:加速する滑車

質量 MM の滑車に糸をかけ、両端に m1>m2m_1 > m_2 をつるし、滑車を上向き加速度 α\alpha で引き上げる。上向きを正、m1,m2m_1,m_2 の加速度を β,γ\beta,\gamma、張力を TT、引き上げる力を FF とする。

質量 M の滑車に糸をかけ、両端に m₁>m₂ をつるし、滑車を上向き加速度 α で引き上げる

滑車にも質量があることに注意。座標を取って束縛条件を探そう。

加速する滑車:F・α・張力 T・両端の質量 m₁,m₂ と加速度 β,γ
加速する滑車:力と加速度(手書き図は座標の取り方を示す)

運動方程式:

m1β=Tm1g,m2γ=Tm2g,Mα=F2TMgm_1\beta = T - m_1 g, \qquad m_2\gamma = T - m_2 g, \qquad M\alpha = F - 2T - Mg

糸の長さ一定(左側+右側=const)を2回微分すると、束縛条件

β+γ=2α\beta + \gamma = 2\alpha

が出る。β,γ\beta,\gammaTT で表して代入すると、

T=2m1m2(g+α)m1+m2T = \frac{2 m_1 m_2 (g + \alpha)}{m_1 + m_2}

コピー用: T = 2 m₁ m₂ (g + α) / (m₁ + m₂)

別解:滑車とともに動く非慣性系で

滑車は加速度 α\alpha で動くので、滑車から見た系は非慣性系だ(慣性系ではない)。この系では慣性力を加える。滑車から見た m1m_1 の上向き相対加速度を AA とすると m2m_2A-A で、

m1A=Tm1(g+α),m2A=Tm2(g+α)m_1 A = T - m_1(g + \alpha), \qquad -m_2 A = T - m_2(g + \alpha)

辺々足して解けば、同じ TT が出る。慣性力を使うと「糸でつながれた2物体」という素朴な形に戻るのが利点だよ。

座標の取り方で難しさが変わる

ここからは少し進んだ話。力学は結局「物体の運動を追跡する」方法論だから、どんな問題でも 最初にどの座標で追うかを決めてから 解くべきなんだ。座標の取り方で難易度が大きく変わる。

立て方をこう変えるとよい:

  1. まず座標を取る。取った時点で、加速度は座標と同じ向きの成分で置く(物体ごとに各成分を未知数に)。
  2. 物体ごとに力を書き出す。ここで「この座標で本当に楽か、別の座標が良いか」を見直す。
  3. 運動方程式を立てる。

「動きそうな向きを正に置く」直感的なやり方は分かりやすいが、可動台のように動く向きが自明でないと詰まる。座標を先に一意に決めると、正負で迷わなくなる。

例題1-2-1:可動台を「斜面に沿う座標」で

同じ可動台を、t=0t=0 に小物体 AA が台 BB の最上点にある状況で、斜面に沿う座標で解いてみる。

同じ可動台。t=0 に小物体 A が台 B の最上点にある状況から始める

t=0t=0 の小物体の位置を原点に、斜面下向きに xx 軸、斜面に垂直に yy 軸を取る。台 BB は回転しないので、上端を代表点にすれば状態が一意に決まる。

斜面下向きに x 軸、斜面に垂直に y 軸を取り、t=0 の小物体位置を原点にする

この座標で、各物体に重力と垂直抗力を書き込む

この座標だと加速度をベクトルで素直に置ける。加速度4成分+束縛力2つで未知数6つ。だから束縛条件が2本要る ── 台が床から離れない条件と、小物体が斜面から離れない条件だ。これらを連立して解くと、小物体の斜面方向加速度は一定になり、速度・位置は

v(t)t,x(t)=12at2v(t) \propto t, \qquad x(t) = \tfrac12\,a\,t^2

の形(等加速度)になる。ここで大事なのは次元。速度なら必ず tt が1つ、位置なら t2t^2 が掛かる。例えば x=12(gsinθ)t2x = \tfrac12\,(g\sin\theta)\,t^2 のように、係数は加速度、時間は t2t^2 ── これが合っていない式は、どこかで計算を間違えている。複雑な式ほど、最後に次元(tt の次数や、m,Mm,M の係数)で検算する癖をつけるといい。

座標軸を増やす

斜面に沿う座標だけだと面倒なときは、床に平行な XX 軸・鉛直上向きの YY 軸を追加して、台は XX-YY、小物体は xx-yy で考えると整理しやすい。

床に平行な X 軸・鉛直上向きの Y 軸を追加し、台は X-Y、小物体は x-y で見る

最後に、二つの座標の関係(xx 軸負の向きと XX 軸正の向きのなす角が θ\theta)で結べば、静止座標での運動に戻せる。

慣性力:加速する観測者の力

台とともに加速する人から見ると、小物体は「ただ斜面を滑るだけ」に見えて、運動の向きが一意に決まる。ただし、この座標は加速しているので 慣性力 を入れないと辻褄が合わない。

慣性力:加速度 a₀ の系で、質量 m に逆向きの見かけの力 −m a₀ が加わる
慣性力の考え方(手書き図はこの斜面台を加速系で見たもの)

慣性力とは、加速度 a0\boldsymbol{a}_0 で動く観測者が質量 mm の物体を見るときに、ma0-m\boldsymbol{a}_0 だけの力がかかって見えると約束することで、加速系でもニュートンの法則を成り立たせるための力だ。これを入れると、静止系で立てた式と無矛盾になる。

台とともに動く系では、重力・垂直抗力に加えて慣性力 −ma₀ を書き込んで力を求める

台とともに動く座標では、小物体は xx 軸に平行に動くので yy 方向の加速度が 00。この束縛のもとで解き、

加速系で解いた小物体の動きを、静止系に戻す準備

最後に「静止系から見た台の変位」+「加速系から見た小物体の変位」を足せば、静止系での位置が復元できる。

台の変位と、加速系から見た小物体の変位を足して、静止系での位置を復元する

別々の座標で解いても、ちゃんと同じ運動に行き着く。どれも正しいが、難易度はまるで違う ── だから「いま何を知りたいか」に合わせて座標を選ぶ技術が効いてくる。

補足:慣性力は一見「見かけの力」だが、より進んだ枠組みでは重力と同じ起源の力として現れる。高校物理では重力と慣性力の和を「見かけの重力」と呼ぶ。地球は自転しているので、遠心力という慣性力も重力加速度に含まれている。

応用:座標選びは工学のセンス

座標をうまく選ぶ技術は、数学的センスというより工学的センスに近い。「いま何を知りたいか」に着目して座標を置けるかどうか、特に慣性力が出る座標系を直感的に扱えるかどうかは、実務で効いてくる。

工学的には、加速度を持つ装置側の座標系で考えたほうが設計判断に直結する場合が多い。たとえば走行中の車両内の機構は、車両の加速度の影響を受ける。静止系から機構の運動方程式を立てるより、加速する車両の座標系で慣性力を使うほうが、ずっと素直で直感的だ。遠心力も同様で、回転する系で考えたほうが扱いやすい問題が多い(バネ秤が測る重さに地球の自転による遠心力が含まれているのも、その一例だね)。


手を動かして確かめたいときは 運動方程式ラボ を。式を1本ずつ足して、束縛条件が揃った瞬間に運動が一意に決まる様子が見える。立てた式を実際に「解く」話は 数値積分とは何か に書いたよ。