解説 — ROADMAP

見える物理を、触りながら一歩ずつ

読むだけで終わらないように、ほとんどの記事に「動かせる遊び場」を添えてある。下の順番に辿ると、力学の基礎から始まって、波と共鳴を抜け、「足し合わせ」と「保存」で場までを、一本の道として掴めるようにしてあるよ。そして第3章の後半からは、掴んだ骨に名前をつけて、少しずつ発展的・抽象的になっていく(発散・ガウスの法則・ポアソン方程式・グリーン関数へ)。もちろん、気になった所からつまんでも大丈夫。
── それとは別の入口として、いちばん下に「通信のしくみ」のコースも生やした。物理とは毛色が違うけれど、線一本のビットから工場のリアルタイムまでを下から一段ずつ積む作りは、ここでも同じだよ。

56 本 ・ 8 章 ── 物理は第3章まで完結+第4章「電磁気への扉」執筆中、別コースに「通信のしくみ」全9回+見取り図
力学の基礎
世界を式に写し、時間で1コマずつ進め、帳尻で締める。運動方程式・数値積分・エネルギー。
声と共鳴 ── 波動の入口
v=fλ から定在波・共鳴管・フォルマントまで一本道で。「あいうえお」が鳴る仕組み。
足し合わせと保存で、場を掴む
波・場・力を貫く2つの素朴な動き ──「足し合わせる」と「湧かない・消えない(保存する量)」。後半は、掴んだ骨に名前をつけて、少しずつ抽象的になっていく。
1
波は、運動方程式から生まれる ── ばね玉の鎖と、分野の境目 ▶ デモ
力学と波動は、別々の分野に見えて、実はひとつ。玉をばねで繋いだ鎖の一個一個に F=ma を立てるだけで、ぽろっと波動方程式が出てくる。離散の運動方程式が連続の波になる瞬間を、弾ける鎖で確かめる。
2
2次元の波 ── 波紋・干渉・ホイヘンス ▶ デモ
水面に石を落とすと、丸い波が広がる。点源の応答・干渉・ホイヘンスの原理を、触れる2次元の波で掴む。ビームフォーミングやゾーンプレートにも触れながら、最後に「消えた波はどこへ行ったのか」を問う。
3
重ね合わせ ── 一発の応答を、足し合わせる ▶ デモ
一発叩いたときの返事(インパルス応答)さえ分かれば、どんな複雑な入力への答えも、その返事の足し算で出てしまう。畳み込みとフーリエ ── ふたつの“足し算”で、波も回路も場も解く。そして最後に「なぜ足し算でいいのか」を問う。
4
1/r²は、保存から生まれる ▶ デモ
音は遠いと小さく、光は離れると暗く、重力は距離の2乗で弱まる ── どれも同じ 1/r²。その理由は媒質でも偶然でもなく、「湧きも消えもしないものが、球面に広がる」という保存と幾何だけ。点源のまわりを、フラックスで見る。
5
源を足して、場を作る ── 一発の返事から、場の全体へ ▶ デモ
源をひとつ置くと、まわりに 1/r² の場ができる(前回)。源を増やすと、その場はただ足し算される(前々回)。向きを足すのはしんどいので、向きのないポテンシャル ── 1/r のすり鉢 ── を足して、場をその坂として取り出す。点源を連ねて場をつくる手の、奥にある二つの見方。
ここから発展 ── 掴んだ骨に、名前をつけていく
6
場の湧き出しを数える ── 発散とガウスの法則 ▶ デモ
前回は源を足して場を作った(中から)。今回は逆 ── 場を全部作らなくても、閉じた面を貫く“正味の出入り”を数えるだけで、中に源があるか分かる(外から)。フラックス・発散・ガウスの法則を、「場がどこで湧いているか」を測る道具として、触れる輪で掴む。
7
源はポテンシャルを曲げる ── ポアソン方程式とラプラス方程式 ▶ デモ
前回、場の湧き出しは源で決まると見た(∇·E=源)。場はポテンシャルの坂(E=−∇φ)。この二つを重ねると、源がポテンシャルの“地形をどれだけ曲げるか”を決める一本の式が出る ── ポアソン方程式 ∇²φ=源。各点が「まわりの平均」に落ち着く緩和ラボで、源=盛り上がり/源なし=いちばん滑らかな膜(ラプラス)を触って掴む。
8
一発の返事で、方程式を解く ── グリーン関数 ▶ デモ
前回、解きたい式 ∇²φ=−ρ がはっきりした。解き方は、連載をずっと貫いてきた一手そのもの ── 一点の源への“一発の返事”さえ覚えれば、どんな源分布も、その返事を置いて足すだけで解ける。その返事に、とうとう名前をつける ── グリーン関数。④で足し続けた 1/r の、正体。
9
遅れて届く返事 ── 波動方程式のグリーン関数 ▶ デモ
ここまで解いてきたのは、時間の止まった静かな場だった。最後に、時間を入れる。一点を一瞬叩くと、その返事は速さ c で外へ広がり、距離 r の所へは r/c だけ遅れて届く ── これが波動方程式のグリーン関数。②の時間の応答と、⑧の空間のグリーン関数が、ここで時空の“遅れて届く一発の返事”に合流する。連載の、最後の一歩。
結晶と対称 ── 並進という約束
まず扱う周期結晶では、根本にある約束は「同じ模様が並進でくり返す」こと。そこから、許される対称・許されない対称(五角形がない理由)・そして並進周期性を手放した準結晶までを、触れる play を埋め込みながら一歩ずつ。
1
結晶は、約束でできている ── 並進と、点を増やす対称 ▶ デモ
周期結晶を結晶にしているのは、硬さでも輝きでもなく、たった一つ『同じ模様が並進でくり返す』という約束。その上で、対称操作は点をコピーする。コピーには2種類あって、片方は右手と左手を入れ替える ── それを鏡と回転で、触って確かめる。
2
回すと、増える ── 5回対称は、なぜ無い ▶ デモ
n回対称は点をきれいな多角形に並べる。でも、周期結晶の並進と握手できるのは 1・2・3・4・6 回だけ。5回も7回もダメ。その線引きは、たった一つの条件『2cosθ が整数』から出てくる ── それを、回しながら確かめる。
3
らせんと映進 ── 並進が、混ざる ▶ デモ
回転や鏡に、最初の主役『並進(ずらし)』が混ざると、新しい対称が生まれる。鏡+半歩の映進は、砂浜の足あとそのもの。回転+ずらしのらせんは、ネジや螺旋階段。操作を『行列をかけて、ずらしを足す』X'=WX+w という形で書き下し、2回・n回くり返すと整数の格子並進に戻ることを確かめる。
4
心(centering)── 並進が、もう一本増える ▶ デモ
格子点は単位胞の角だけにあるとは限らない。面の真ん中や立方体のど真ん中に、もう一組が隠れていることがある。それは慣用胞の中に現れる『中心化並進(分数並進)』── これが増えるたびに、単位胞内の等価点が2倍・4倍になる。Fm-3m の一般位置が192個になる理由を、その掛け算でほどく。
5
空間群は、圧縮ファイル ── なぜ、部品を学ぶのか ▶ デモ
並進・回転・映進・らせん・中心化。部品はそろった。でも『なぜ覚えるの?』に答えていなかった。空間群を学ぶ理由は、対称操作を暗記するためじゃない ── 無限に続く結晶を、代表の原子だけから復元するためだ。結晶の圧縮ファイル、住所録、回折の指紋として空間群を読み直す、橋渡しの回。
6
実結晶 ── 岩塩を、部品から組み立てる ▶ デモ
並進・回転の制限・らせんと映進・心。ここまで集めた部品を、ほんものの結晶ひとつに全部効かせてみる。題材は岩塩(NaCl)。面心格子に原子を置くと、一般位置192の等価点のうち原子は『特等席(特殊位置)』に座り、単位胞には Na が4・Cl が4。その理由を multiplicity と site symmetry で確かめて、最後に教材用の3D空間群エクスプローラーに触れる。
7
準結晶 ── 並進を捨てると、5回が戻る ▶ デモ
この章はずっと、たった一つの約束『並進でくり返す』を足場に歩いてきた。最後に、その約束をわざと手放す。周期がないのに秩序はある ── そんな並びを許すと、禁制だったはずの5回対称が堂々と戻ってくる。ペンローズ・タイリングと準結晶、そして『結晶』の定義が広がった話。連載の、最後の一歩。
電磁気への扉 ── 場を、測れる力として
マクスウェルの4本からは入らない。2つの電荷が押し合う “測れる力” から出発して、それを電荷で割るだけで「場」を立ち上げる。クーロン→場→電位→ガウス→電流、と地面(測った力)に錨を下ろしたまま、一歩ずつ扉を開けていく。執筆中。
1
場とは、測れる力のこと ── 電荷と、電場のイメージ ▶ デモ
電磁気は、力学の延長だ。電荷が力を及ぼし合うという実験事実から出発し、力を電荷で割るだけで“場”を、測れる量として立ち上げる。重力場 g と同じ構造で。
2
電位とは、運んだ仕事のこと ── 電圧の正体を、歩いて掴む ▶ デモ
電圧は、名前は身近なのに正体がぼやけている。それを「単位電荷あたりの位置エネルギー」として、力学の仕事から組み立て直す。鍵は“道によらない力=保存力”── だから場の上に、電位という一枚の地図が描ける。
3
ガウスの法則を、道具にする ── 対称性で、場を一発で出す ▶ デモ
場を知るのに、源を一つずつ足すのは骨が折れる。でも電荷に対称性があれば、閉じた面で囲って数えるだけで、場が一発で出る。点・線・面 ── ガウス面を対称性に合わせて選ぶコツを、点電荷・帯電した線・無限平面・コンデンサで手を動かして掴む。
4
場は、どこで渦を巻くか ── 循環とcurl ▶ デモ
③のガウスが「面で囲って湧き出しを数える」道具なら、その双子は「輪で囲って渦を数える」道具だ。流れに小さな羽根車を浮かべて、回る所と回らない所を見る ── まっすぐな流れでも羽根車が回る、という驚きから、循環と curl、そして②でやり残した『一周ぶん』の話へ。
5
流れても、たまらない ── 電流と連続の式 ▶ デモ
④で『電流のまわりに磁場が渦を巻く』と予告した。じゃあ、その電流とは何で、どんな決まりに従っているのか。鍵は拍子抜けするほど素朴で ── 電荷は、消えも湧きもしない。この一つの事実を、流れの言葉に翻訳すると連続の式 ∂ρ/∂t+∇·J=0 になり、回路の言葉に翻訳するとキルヒホッフの電流則になる。同じ保存則の、二つの顔だ。そしてこの式が、後でマクスウェルにアンペールの法則を直させることになる。
通信のしくみ ── 線一本から、工場のリアルタイムまで
ここだけ毛色が違う、工学の一本道。ハードは分かるのにプログラミングや通信となると急にブラックボックス…という人へ。線一本に流れるビット(UART)から始めて、クロック・点対点のスマートセンサ・差動・衝突しない調停・スイッチ・IP と一段ずつ積み、最後は工場の硬いリアルタイム(産業 Ethernet)と、その底で“通り抜けながら書き換える”専用チップ(EtherCAT)まで。下に積んだ石が上の回で何度も顔を出す ──「あ、これさっきのだ」を辿れるよう、触れる widget とサンプルコードを各回に置いた。冒頭の「地図」は、紛らわしい名前(Ethernet/EtherNet/IP/EtherCAT…)の見取り図。
地図
イーサって、結局なに? ── 紛らわしい名前の地図
通信を調べると、Ethernet・EtherType・EtherNet/IP・EtherCAT・PROFINET… 似た“Ether”が次々出てきて、どれがどれだか分からなくなる。でも、こんがらがるのは中身じゃなくて名前のほうだ。『どの層の話か』『誰が作ったか』『TCP/IP を使うか』── この3つで切ると、全部が一枚の地図にきれいに収まる。コースを登る前の(あるいは迷ったとき戻ってくる)、見取り図。
1
UART ── 一本の線に、バイトを乗せる ▶ デモ
通信のしくみを、いちばん素朴なところから積んでいく第一歩。UART(シリアル)は、線一本でビットを順番に送るだけ ── しかもクロックの線を共有しない。文字 'A' を、start/stop の枠にはめ、波形にして送り、受信側が“真ん中”で読み解くまでを、触れる widget と pyserial のコードで開けてみる。ハードの勘が、そのまま通信の勘につながるように。
2
SPI と I²C ── 時計の線を、引く ▶ デモ
UART の次の一歩は、線を一本足すこと ── クロック(時計)の線だ。時計を共有すると、速さの約束も“真ん中で読む”も要らなくなる。基板の中でチップ同士を結ぶ二大定番、SPI(4本・全二重・線で選ぶ)と I²C(2本・アドレスで選ぶ)を、波形とコードで開けてみる。UART で握った勘が、そのまま効いてくる。
3
IO-Link ── センサの3本線に、デジタルの言葉を
SPI・I²C は基板の中の話だった。これを基板の外 ── 現場のセンサまで延ばすのが IO-Link。すごいのは、いつもの3本線(24V の電源と、オン/オフのスイッチ信号)をそのまま使うのに、その同じ線でセンサがしゃべり・名乗り・設定を受け取れること。しかも中身は、第一歩で開けた UART そのものだ。点対点のまま、“賢いセンサ”へもう一段。
4
RS-485 と Modbus ── 遠くまで、大勢に ▶ デモ
UART は近くて1対1だった。これを「遠く・大勢」へ広げるのが RS-485 だ。鍵は二つ ── 2本の線に逆向きの信号を流して“差”で読むと、ノイズがまるごと消える(だから1200m 届く)。そして同じ2本に何台もぶら下げ、アドレスで呼び分ける。その上で話す Modbus は「1台ずつ聞いて回る」── EtherCAT がひっくり返した、あの世界の入口だ。
5
CAN と CANopen ── 衝突しない、優先度つきのバス ▶ デモ
RS-485 は親分が1台ずつ聞いて回った。CAN はそこを飛び越える ── 誰でも喋れる多マスタなのに、複数が同時に話し出しても衝突せず、優先度の高いメッセージが自動で勝つ。鍵は『0 が 1 に勝つ』という一つのルール(非破壊アービトレーション)。車の中で鍛えられたこの仕組みと、その上の辞書 CANopen(EtherCAT の CoE の元)を開けてみる。
6
Ethernet ── 配達先を書いて、スイッチが運ぶ ▶ デモ
共有バス(RS-485 / CAN)は、一本の線を皆で分け合った。Ethernet はそこを抜けて、点対点をスイッチで束ねる ── 各機器に世界で一意な MAC 番地を振り、フレームに『宛先』を書き、スイッチが『どの機器がどの口に居るか』を学習して、その口だけへ運ぶ。物理のあの波形から、フレームの中身、スイッチの学習までを開けてみる。この上に、次回 TCP/IP が積まれる。
7
TCP/IP ── 世界中とつながる、落ちても届く ▶ デモ
Ethernet は隣近所(MAC)までだった。その枠の中身を IP にすると、世界中どこへでも届く『住所と経路』が手に入り、さらに TCP を重ねると『落ちても届く・順番も守る』信頼が乗る。握手・再送・並べ直しの仕組みと、その代償=“いつ届くかが揺れる”を開けてみる。これが、EtherCAT がわざわざ TCP/IP を積まなかった理由でもある。
8
産業 Ethernet ── 三つの行き方と、梯子の頂上 ▶ デモ
TCP/IP は『必ず届くが、いつ届くかは揺れる』。工場が欲しい『1ミリ秒ごとに全軸を同時に』には、その揺れが邪魔になる。じゃあどう御すか ── 答えは三通りある。標準を全部残す EtherNet/IP、賢く割り込む PROFINET、ハードに焼く EtherCAT。この三者を一本のスペクトルに並べて、ついでに、ここまで登ってきた通信の梯子を、頂上から見下ろしてみる。
ここから、ひとつだけ底まで ── 最初に開けた規格を、シリコンへ
9
EtherCAT を開ける ── 線の上のビットから、マスタのループまで ▶ デモ
産業用の高速ネットワーク EtherCAT を、ブラックボックスのまま使うんじゃなく、一層ずつ開けてみる。線の上のビット(君が知ってる波形)から、バイトの並び、マスタのループ、そして“通り抜けながら書き換える”専用チップまで ── ハードの勘が、そのままプログラミングの勘につながるように。触れる widget と、短いサンプルコードを所々に置いた。
光で測る ── センサ三部作
光の遅れで距離を測り(ToF)、物が自分で放つ光で温度を測り(サーマルカメラ)、最後に二つの場を重ねて「そこにいるのは生き物?」と世界に問う。全部、数千円の市販部品とラズピコで机の上に再現できる ── 保存則の連載で掴んだ「遅れて届く返事」の、実物編。
1
光の遅れで、距離を測る ── ToFセンサの原理 ▶ デモ
波動方程式のグリーン関数の最後に、こう書いた ── レーダーやソナーは、往復の遅れで距離を測る、と。今回はその実物を机の上に置く。光は1mmを3.3ピコ秒で進む。「そんな時間、測れるわけがない」から始めて、位相で測る道と、光子を数えて山を積む道 ── 市販の小さなセンサの中で本当に起きていることまで歩く。「光で測る」三部作の一歩目。
2
すべての物は、光っている ── 熱放射とサーマルカメラ ▶ デモ
前回は、光をこちらから出して、返事の遅れで距離を測った。今回は、何も出さない。真っ暗な部屋でも、サーマルカメラには部屋が「見える」── すべての物は、温度を持つかぎり、自分で光っているからだ。体温の光は波長9µm。目に見えないだけで、君はいまも光っている。プランク曲線の読み方から、熱の流れを電圧に変える画素、そして眼鏡が黒く抜ける理由まで。「光で測る」三部作の二歩目。
発展
場を、掛け合わせる ── 熱×深度のセンサフュージョン ▶ デモ
距離の場を測る目(ToF)と、温度の場を測る目(サーマル)が揃った。でも、どちらも一人では思い違いをする ── 近づいてきたのが人か箱か、ToFには原理的に分からない。今回は二つを重ねる。「近い」と「温かい」を点ごとに掛け合わせると、単独では作れなかった区別 ── 生き物・ただの箱・遠くの照明 ── が浮かび上がる。重ね合わせ(足し算)との違い、位置合わせという地味な主役、そしてグリーン関数との再会まで。「光で測る」三部作、最後の一歩。
共振と電源 ── スイッチは波を作らない
ジャンクの液晶モニタから出てくる小さな基板、CCFLインバータから始める電力変換の一本道。クロックが無いのに発振し、オン・オフの2値しか無いのにきれいな正弦波を作る ── 主役はスイッチじゃない、LとCだ。自励の起動、電流給電、トランスの中の磁束と波、高次共振と三倍共振、そして「共振=定電流」神話の訂正から、故障を物理で読むまで。触れるシミュレータを一段ずつ添えて、全9回。
1
スイッチしかないのに、正弦波 ── コレクタ共振回路の物理 ▶ デモ
ジャンクの液晶モニタから出てくる細長い基板、CCFLインバータ。クロックも制御ICもないのに、電源を繋ぐだけで数十kHzのきれいな正弦波を作る。オン・オフの2値でしか動けないスイッチの、どこから滑らかさが出てくるのか。答えは主役の取り違えにある ── 波形を描いているのはスイッチじゃない。LとCだ。自由振動・ボルト秒平衡・πVin・ZVSまで、一本の話として辿る。
2
誰も合図していないのに ── 自励発振の起動を、一歩一歩 ▶ デモ
クロックのない回路が、電源を入れた瞬間から発振を始める。でも考えてみると変だ ── 最初は何の振動もないのに、誰が最初の一歩を踏むのか。答えはちょっと意地悪で、「完全に対称なら、始まらない」。部品のばらつきという工業製品の不完全さが点火装置になり、正帰還がそれを育て、飽和が止める。電源投入からリミットサイクルまで、回路の中の因果を一コマずつ追う。
3
直列か、並列か ── 「共振する」だけでは設計に使えない ▶ デモ
「LとCが共振する」── この一文は正しいのに、設計の役にはほとんど立たない。直列に繋いだか、並列に繋いだか、駆動するのは電圧源か電流源か、で回路の顔は正反対になる。直列は電流の山、並列は電圧の山。外から見える量と、タンクの中で回る量を分けて数え、最後に「位相の勾配」── Qが発振周波数の錨になる話まで。
4
チョークの言い分 ── 電圧源を電流源に変える、地味な巻線の四つの仕事 ▶ デモ
コレクタ共振回路の入口に座っている、ただのコイル。第1回から舞台の入口でずっと働いてきたのに、その言い分をちゃんと聞いたことがなかった。仕事は四つある——電流をならす、タンクの山を電源から守る、高周波を電源線に返さない、そして、エネルギーを抱え込む。リップルの式に出てくる謎の係数0.105の出どころから、「大きいほど良い」の罠まで。
5
トランスは巻数比の箱じゃない ── 磁束と電界が同居する、ひとつの空間 ▶ デモ
V₂/V₁=N₂/N₁。この便利な式を信じている限り、トランスはただの比率変換の箱に見える。でも高圧・高周波・疎結合の世界に入ると、箱の中で三つの物理が同居しているのが見えてくる——両方の巻線を貫く共通磁束、片方にしか鎖交しない漏れ磁束、そして巻線のすき間を埋める電界。漏れも容量も「寄生」ではなく住人だ。結合係数kの正体、開放と短絡で違うインダクタンスが測れる理由、n²反射則が「極限の顔」である話まで。
6
巻線の中の波 ── 高圧巻線は、部品ではなく共振器 ▶ デモ
第5回で紹介した三人目の住人・電界が、いよいよ主役になる。インダクタンスと容量が細かく分布した巻線は、それ自体がひとつの伝送線路で、電圧はもはや「一つの値」ではなく場所の関数になる。定在波、節と腹、そして境界条件が生む奇数倍の共振列。楽器の管と同じ物理が、高圧トランスの二次巻線の中で鳴っている——1/4波長の直感の使い方と、使ってはいけない場面、モード分裂まで。この章の後半の山。
7
1/9のさじ加減 ── 三倍共振と、頭を平らにした波 ▶ デモ
基本波に3次高調波をほんの少し——ちょうど1/9——混ぜると、正弦波の頭が平らになる。ピークを下げたまま実効値と電荷を稼ぐ、CCFLインバータで「三倍共振」と呼ばれた波形整形の物理。1/9という半端な数の出どころを微分2回で導出し、クレストファクタ8/√41まで厳密に計算する。そして代償——ゼロクロスは33%急になり、混ぜすぎれば頭が凹み、位相が狂えば波が傾く。高調波を敵ではなく道具として使うときの、さじ加減の話。
8
定電流の作り方 ── 共振は電流を最大にするが、一定にはしない ▶ デモ
「二次側を直列共振させれば定電流になる」——回路の世界で長生きしている神話を、感度の式一本で解剖する。共振点での負荷感度はS_R≈−1、つまり負荷が10%増えれば電流は10%減る。ぜんぜん定電流ではない。では本物の定電流はどう作るのか——大きなバラスト、LCL/LCC網、特定トポロジー、そして能動帰還。√(L/C)が「整合の証明」にならない理由まで。神話の訂正回。
9
故障を物理で読む ── 症状は、回路が書いた診断書 ▶ デモ
発振しない。片側だけ熱い。無負荷で壊れた。周波数が日によって違う——コレクタ共振回路の典型故障7つを、この章で積んだ物理で一つずつ読み解く終章。故障は運の悪さではなく、起動利得・ボルト秒平衡・Q・境界条件・内部モードのどれかが書いた診断書だ。締めはストレス予算の考え方と、この章の全部の式に付いていた「前提」の一覧表。式は暗記ではなく、適用範囲つきの約束。
そのほか
記事
dx を v dt に書き換えていい理由 ── “約分”の正体は、置換積分
仕事の式の途中で出てくる dx = (dx/dt)dt = v dt という書き換え。dt を約分しているように見えて、ちょっと反則っぽい。でもこれは反則じゃなく、置換積分(変数変換)そのものだ。ライプニッツの記法が、なぜあんなに“約分が効く”のかも含めて、ゆっくり開く。
記事
図に、だまされない ── 同じ数字が、別の物語になるとき ▶ デモ
グラフの嘘は、論理じゃなく目に効く。だから知識では防げない。軸を切る・面積で盛る・二軸で重ねる・累計で隠す・切り取る・ビン・対数・相関を因果に ── 8つの手口を、自分の手で“盛って”崩して、見破る目を作る。本当の数字は、ずっと変わっていないのに。
記事
写真が小さくなる仕組み ── JPEGは、何を捨てているか ▶ デモ
JPEGは“捨てて”小さくする圧縮、PNGは“捨てずに”小さくする圧縮。写真の8×8ブロックをDCTで波に分解し、細かい波を量子化で捨てる ── その計算を一歩ずつ数字で追い、崩れ(ブロック・リンギング)がどこから来るのかを、触れる形で開ける。
記事
答えより、残るもの ── AIとの会話を『資産』に変える
AIに聞いて、その場で分かった気になって、履歴の奥に沈む。よくある使い方だけど、それだと“残らない”。投入したトークンに対して、後から再利用できる成果物がどれだけ残ったか ── そこを見る、という考え方について。私が賛成するところと、少し違うと思うところを、正直に。
記事
無い所が、形を語る ── 不在が描く構造 ▶ デモ
在るものより、無いもののほうが、構造をくっきり白状することがある。結晶の回折で欠けた斑点が格子の型を教え、干渉の節線が源の配置を描き、抜けた成分が形を決める。「消えているもの」を読む、という見方の話。
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位相 ── 見えないのに、形を決めている ▶ デモ
私たちが測るのは、たいてい“強さ”(振幅・明るさ)だ。でも、形を運んでいるのは、測りにくいもう一方 ── 位相のほう。2枚の画像の振幅と位相を入れ替えると、出てくるのは位相を残したほうの絵。結晶学の位相問題から信号・干渉まで、見えない位相が構造を握っている話。
記事
なぜシミュレーションは壊れるのか ── 格子の上の、速度制限 ▶ デモ
鎖のシミュレーションは、時間きざみを大きくすると、ある所で急に発散して暴れ出す。あれはバグじゃない。離散の世界には「1ステップに1マス」という速度制限があって、本物の波がそれを超えると、計算が追いつけなくなる。CFL条件=格子の上の因果律を、壊れる瞬間から掴む。