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定電流の作り方 ── 共振は電流を最大にするが、一定にはしない

2026.07.23

「二次側を直列共振させれば定電流になる」——回路の世界で長生きしている神話を、感度の式一本で解剖する。共振点での負荷感度はS_R≈−1、つまり負荷が10%増えれば電流は10%減る。ぜんぜん定電流ではない。では本物の定電流はどう作るのか——大きなバラスト、LCL/LCC網、特定トポロジー、そして能動帰還。√(L/C)が「整合の証明」にならない理由まで。神話の訂正回。

▶ 負荷感度メータを全画面で開く

放電ランプは負性抵抗の負荷だ。電流が増えると電圧が下がる。そのまま電圧源に繋ぐと、電流はどこまでも増えて壊れる。だからこの手の負荷には必ず「電流を決めてやる係」——バラスト——が要る。

そしてここに、回路の世界で長生きしている言い伝えがある。「二次側を直列共振にすれば、定電流駆動になる」。共振には不思議な力があって、負荷が何であれ決まった電流を流してくれる——という気分の話だ。

気分は式で確かめよう。今回は微分1回で終わる、短い解剖だよ。

感度という物差し

いちばん単純なモデル:正弦波電圧源 VsV_s が、源の抵抗 RsR_s、インダクタ LL、コンデンサ CC、負荷 RLR_L直列に駆動する。リアクタンスを X(ω)=ωL1/ωCX(\omega) = \omega L - 1/\omega C と置けば、電流振幅は

I=Vs(Rs+RL)2+X2|I| = \frac{|V_s|}{\sqrt{(R_s + R_L)^2 + X^2}}

「定電流かどうか」を測る物差しは、負荷が1%動いたとき電流が何%動くか——対数微分で定義する感度だ。

SR=lnIlnRL=RL(Rs+RL)(Rs+RL)2+X2S_R = \frac{\partial \ln|I|}{\partial \ln R_L} = -\frac{R_L(R_s + R_L)}{(R_s + R_L)^2 + X^2}

SR=0S_R = 0 なら完璧な定電流、SR=1S_R = -1 なら「負荷が10%増えると電流が10%減る」——ただの電圧源をぶら下げたのと同じということになる。

共振点で測ると

さて共振点では X=0X = 0。分母から逃げ道が消えて

SRX=0=RLRs+RLS_R\Big|_{X=0} = -\frac{R_L}{R_s + R_L}

負荷が源の抵抗より大きい普通の状況(RLRsR_L \gg R_s)では、SR1S_R \simeq -1

共振点は、定電流から一番遠い場所だった。 共振がやっているのはリアクタンスの相殺——直列の谷(第3回)で、電流を邪魔するものを消して最大化する仕事だ。邪魔者が消えた後に残るのは抵抗だけ。そして抵抗だけの回路の電流は、負荷にそのまま支配される。電流を最大にすることと、電流を一定にすることは、ほとんど正反対の性質なんだ。

R_L = 0.1R_L = 3(対数軸)R_L = 100 共振点(X=0)── 負荷を増やすと電流がずるずる落ちる 大バラスト(|X|=8)── 負荷が|X|より小さい間、電流はほぼ動かない
電流|I|対負荷R_L(縦軸は電流、上ほど大)。共振点の曲線は最初から落ち続ける=負荷に敏感。リアクタンスを残した曲線は、R_Lが|X|に届くまで平ら=これがバラストの働き。

では、どう作るのか

定電流に近づく道は、ちゃんと別にある。四つ並べよう。

① 大きな直列バラスト。 XbZL|X_b| \gg |Z_L| となる大きなリアクタンスを直列に入れれば、IVs/jXbI \simeq V_s / jX_b——分母を負荷でなくリアクタンスが支配するから、負荷が動いても電流は鈍い。図の緑の曲線がこれだ。感度の式でも、分母の X2X^2 が大きいほど SR0S_R \to 0 に向かうのが見える。ただし代償として、大きな無効電圧と循環電力を抱え込む。注意してほしいのは、これは共振から離れることで得た性質だということ——「直列共振による定電流」の正反対の動作だ。

② LCL/LCC定電流網。 素子を3つ以上使う共振網には、特定の条件で「出力電流が入力電圧に比例し、負荷に(一次近似で)依存しない」動作点を持つものがある。ワイヤレス給電の送電回路でよく出てくる構成だね。ただしこの定電流性はトポロジーと接続位置から生まれる性質であって、単一の直列LCが持っている性質ではない。回路図の形が変われば消える。

③ 特定トポロジーの設計点。 電流給電並列共振プッシュプルの一部には、負荷を電流トランス的に結合して、設計点で負荷非依存の電流を得るものが実在する。実在するからこそ神話が生まれた、とも言える——特定の回路の特定の設計点で成り立つ結果を、「共振=定電流」と一般化したところに神話の出生地がある。

④ 能動帰還。 電流を測って、源を調整する。専用制御ICがランプ電流検出を内蔵しているのは、①〜③だけでは負荷の個体差・温度・寿命変化まで吸収しきれないからだ。身も蓋もない結論だけど、いちばん強い定電流は「測って直す」。物理は出発点を良くするためにあり、仕上げは帰還がやる。

おまけの神話 ── √(L/C)は「整合の証明」ではない

もうひとつ、隣に住んでいる言い伝えも片付けておこう。「Zr=L/CZ_r = \sqrt{L/C} を負荷に合わせたから整合が取れている」。

L/C\sqrt{L/C} は確かに意味のある量だ。タンクの電界エネルギーと磁界エネルギーが等しいとき 12CV2=12LI2\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}LI^2 から V/I=L/CV/I = \sqrt{L/C}——共振器が自然に持つ電圧と電流の縮尺で、第3回の「中の顔」の親戚だよ。設計の見当を付けるのに毎回使う。

でも「負荷の V/IV/I と近い」ことは、最大電力伝送も最高効率も証明しない。最大電力の条件(共役整合)が定義できるのは線形な二端子の源に対してで、コレクタ共振系は非線形で、多端子で、状態依存だ。ZrZ_r縮尺として使い、証明には使わない——数字の役割を混ぜないことが、この章でずっとやってきた「顔の使い分け」の最後の一枚ということになるね。

遊び場 ── 神話を自分の指で壊す

下の遊び場は負荷感度メータだ。

constant-current全画面で開く ↗

次回は終章、「故障を物理で読む」。発振しない・片側だけ熱い・無負荷で壊れる——症状の一つひとつを、この章で積んだ物理で診断する回だ。