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直列か、並列か ── 「共振する」だけでは設計に使えない

2026.07.22

「LとCが共振する」── この一文は正しいのに、設計の役にはほとんど立たない。直列に繋いだか、並列に繋いだか、駆動するのは電圧源か電流源か、で回路の顔は正反対になる。直列は電流の山、並列は電圧の山。外から見える量と、タンクの中で回る量を分けて数え、最後に「位相の勾配」── Qが発振周波数の錨になる話まで。

▶ 共振の顔エクスプローラを全画面で開く

第1回で、コレクタ共振回路の主役はLCタンクだと言った。第2回では、そのタンクが起動の合図まで配っていることを見た。タンクづくしの章なのに、まだちゃんと聞いていないことがある ── そもそも「共振する」って、回路として何が起きているんだろう。

「LとCが共振する」。この一文は正しい。周波数 ω0=1/LC\omega_0 = 1/\sqrt{LC} も正しい。でも、この一文だけでは設計に入れない。LとCを直列に繋いだのか、並列に繋いだのか。駆動するのは電圧源か、電流源か。負荷はどこに挟まるのか。 それを言わない限り、「共振」という言葉は回路の顔をまだ何も描写していないんだ。

直列の顔 ── 電流の山

まず直列。電圧源から、抵抗 RsR_s・インダクタ・コンデンサを一列に繋ぐ。端子から見たインピーダンスは

Zs(jω)=Rs+j(ωL1ωC)Z_s(j\omega) = R_s + j\left(\omega L - \frac{1}{\omega C}\right)

かっこの中を見てほしい。ωL\omega L は周波数と共に育ち、1/ωC1/\omega C は周波数と共に痩せる。だからちょうど ω0=1/LC\omega_0 = 1/\sqrt{LC} で二つは同じ大きさになり、符号が逆だから、消し合う。 残るのは RsR_s だけ。

Zs(jω0)=RsZ_s(j\omega_0) = R_s

つまり直列共振は、インピーダンスのだ。電圧源から見ると、共振周波数でだけ道がすっと開いて、電流が山になる。

面白いのはタンクの内側だ。枝を流れる電流 II は共通だから、Lの端子電圧は ω0LI\omega_0 L \cdot I、Cの端子電圧は I/ω0CI/\omega_0 C。これを入力電圧と比べると、

Qs=ω0LRs=1ω0CRsQ_s = \frac{\omega_0 L}{R_s} = \frac{1}{\omega_0 C R_s}

倍になっている。Qs=50Q_s = 50 なら、10Vしか入れていないのにLとCの端子にはそれぞれ500Vが立つ(互いに逆位相で、外から見ると打ち消し合っているから端子には見えない)。共振昇圧 ── 入力より高い電圧が、増幅器なしで湧いて見える現象の正体だよ。

並列の顔 ── 電圧の山

今度はLとCと抵抗 RpR_p を並列に束ね、電流源で駆動する。アドミタンス(インピーダンスの逆数)は

Yp(jω)=1Rp+j(ωC1ωL)Y_p(j\omega) = \frac{1}{R_p} + j\left(\omega C - \frac{1}{\omega L}\right)

やっぱり ω0\omega_0 で虚数部が消えて、Zp(jω0)=RpZ_p(j\omega_0) = R_p。ただし今度は RpR_p一番大きいインピーダンスとして残る。並列共振は、インピーダンスのだ。電流源が押し込む電流は逃げ場を失って、端子電圧が IsRpI_s R_p まで立ち上がる。

そして内側では、LとCの枝を Qp=Rp/(ω0L)Q_p = R_p/(\omega_0 L) 倍の電流がぐるぐる循環している。外から注ぎ込む電流は細くても、タンクの中では太い電流が回り続けている ── ブランコを外から押す手は小さくても、ブランコ自体は大きく揺れているのと同じ構図だ。

V R_sLC 一本道 ── 電流はみんな共通 R_pLC 全員同じ電圧 ── 中では電流が循環
同じLとCでも、繋ぎ方で「共通なもの」が変わる。直列では電流が、並列では電圧が、全員に共通。

外の顔と、中の顔を混ぜない

共振の話が混乱するのは、たいてい外部端子で見える量と、タンク内部で回る量を混ぜたときだ。整理するとこうなる。

外から見た共振点中で大きくなる量相性のよい駆動
直列インピーダンス最小(谷)・電流最大L・C各端子の電圧(約Q倍)内部抵抗の低い電圧源
並列インピーダンス最大(山)・電圧最大L・C枝の循環電流(約Q倍)内部抵抗の高い電流源
並列 |Z| ── 山 直列 |Z| ── 谷 ω₀ → 周波数(対数)
同じQ、同じω₀でも、直列は谷・並列は山。上下にちょうど鏡写しになる(縦軸は対数)。

この表は「逆の組み合わせでは共振しない」という意味ではないよ。ただ、山に電圧源を直結すると山を電源が押し潰し、谷に電流源を繋ぐと電流の行き場がなくなる。それぞれの顔が生きる駆動が、それぞれにある、という話だ。

ここまで来ると、第1回の答え合わせがひとつできる。コレクタ共振回路は、並列タンクチョークで電流源化した電源で駆動していた。表の下段そのままの組み合わせだ。あの回路の入力チョークは「タンクの電圧の山を、電源が押し潰さないようにするための隔離」だった ── チョークの言い分は次回もう少し丁寧に聞くことにして、先にもうひとつ、Qの隠れた仕事を見ておきたい。

位相の勾配 ── Qは周波数の錨

共振カーブというと振幅(|Z|の山谷)ばかり見がちだけど、自励発振にとって本当に効いているのは位相のほうだ。

並列タンクのインピーダンスの位相 ϕ=argZp\phi = \arg Z_p は、共振点のずっと下では +90°(誘導性)、ずっと上では −90°(容量性)、そして共振点でちょうど 0° を横切る。このS字の傾きが、共振点で

dϕdωω0=2Qpω0\left.\frac{d\phi}{d\omega}\right|_{\omega_0} = -\frac{2Q_p}{\omega_0}

になる。Qが高いほど、位相はω₀のまわりで急峻に変わる。

+90° −90° Q=2 Q=5 Q=20 ── 崖 ω₀
位相のS字。Qが高いほど、ω₀のまわりで位相は崖になる ── 傾きは −2Q/ω₀。

なぜこれが大事か。自励発振は「ループを一周した位相の帳尻が合う周波数」で発振する。第2回で見たように、帰還巻線やトランジスタには遅れがある ── BJTの蓄積時間、ゲートの充放電。帰還側が位相を Δϕ\Delta\phi だけ遅らせるなら、タンク側が同じだけ逆に稼いで帳尻を合わせるしかない。位相のS字を Δϕ\Delta\phi ぶん登り降りした場所まで、発振周波数が動く。

Δωω0Δϕ2Qp\frac{\Delta\omega}{\omega_0} \simeq \frac{\Delta\phi}{2Q_p}

分母に 2Qp2Q_p が居る(ずれの向きは遅れの符号の取り方で変わるから、ここは大きさで読んでほしい ── 遅れが増えると、発振点は共振点の低い側へ動くことが多い)。Qが高いほど、同じ遅れに対する周波数のずれが小さい。 位相の崖が急なら、少し登るだけで帳尻が合うからだ。Qは「揺れを長持ちさせる係数」として紹介されることが多いけれど、自励発振器の中では発振周波数を共振点に繋ぎ止める錨としても働いている。トランジスタを載せ替えたら発振周波数が微妙に変わった、という現象の骨格は、たいていこの式で読める(これは線形化した近似で、深く飽和した定常状態を厳密に解く式ではない、という但し書きは添えておくよ)。

遊び場 ── 山と谷と、崖

下の遊び場で、直列と並列を切り替えながらつまみを回せる。

次回は、さっき後回しにした約束 ── チョークの言い分を聞く。電圧源を電流源に変える、あの地味な巻線が、実は四つも仕事を抱えている話。