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声はどこで鳴っている? — 波・定在波・共鳴管からフォルマントまで

2026.06.13

「あいうえお」の違いは、口の中の“管”の鳴り方の違いだ。そこへ辿り着くために、波の速さ v=fλ から、定在波、共鳴管、そしてフォルマントまでを一本道で、動く絵を触りながら積み上げる。

▶ 波の遊び場(3つ)を全画面で開く

「あ」と「い」は、何が違うんだろう。声の高さは同じままでも「あ」「い」「う」と言い分けられる。つまり高さとは別の何かが母音を決めている。

その正体は、口の中という「管」の 鳴り方 だ。喉から出てくる音そのものは、ブザーみたいな素朴な音でしかない。それが口・喉という管を通るとき、管が特定の周波数だけを強く響かせる。どの周波数が強まるかで「あ」になったり「い」になったりする。

この「管が特定の周波数を響かせる」を最後まで腑に落とすために、波の基本から一段ずつ積み上げよう。急がなくていい。各段に、触って動かせる絵を置いておくよ。

波の速さ:v=fλv = f\lambda

まず波そのものから。波で動いて伝わるのは「もの」ではなく「形(パターン)」だ。水面の波が右へ進んでも、水そのものは右へ流れていかない。各点は上下しているだけで、伝わるのは「山と谷の並び」という形のほう。

その形を3つの量で測る。

この3つは独立じゃない。v=fλv = f\lambda という関係で必ず結ばれている。なぜかは、絵で見るのがいちばん早い。下で ffλ\lambda のスライダーを動かすと、波の速さ vv がどう変わるか見える。ff を上げても λ\lambda を伸ばしても、波は速くなる。

静止画だと v=fλv=f\lambda はピンと来にくいけれど、動かすと一目でわかる。1回の振動(周期 T=1/fT=1/f 秒)のあいだに、波はちょうど1波長 λ\lambda だけ進む。だから

v=進んだ距離かかった時間=λT=λ1/f=fλv = \frac{\text{進んだ距離}}{\text{かかった時間}} = \frac{\lambda}{T} = \frac{\lambda}{1/f} = f\lambda

数える側から見ても同じ式が出る。時間 tt のあいだに、ある地点を通り過ぎる山の数は N=ftN = f t 個。山ひとつぶんの長さが λ\lambda だから、波が進んだ距離は x=λN=λftx = \lambda N = \lambda f t。これを時間で割れば(微分すれば)速さになる:

v=dxdt=ddt(λft)=λfv = \frac{dx}{dt} = \frac{d}{dt}(\lambda f\, t) = \lambda f

「総長 = 1個の長さ × 個数」を時間で割っただけ。v=fλv=f\lambda は覚える公式というより、定義から自然に出てくる関係なんだ。下の絵は、まさにこの「数える」側 ── 固定した観測点を山が通り過ぎるたびに NN が増え、進んだ距離 x=λNx=\lambda N、速さ v=x/t=fλv=x/t=f\lambda が育っていくのが見える。

ひとつ注意。上の遊び場では ffλ\lambda を別々に動かせるけれど、空気中の音はそうではない。音速 cc は空気(おもに温度)でほぼ決まっていて、ほとんど一定だ。だから音では v=fλv=f\lambda の左辺 cc が固定で、ff を上げると λ\lambda が短くなる(高い音ほど波長は短い)。ffλ\lambda は独立に選べる量ではなく、cc を通してシーソーのように連動している ── ここは「一般の波」の遊び場だと見えにくい所だよ。

定在波:進む波が重なって、動かなくなる

波は反射する。管の端、弦の端、壁 ── ぶつかると跳ね返って、逆向きに進む波になる。そして 同じ波が右向きと左向きで重なる と、不思議なものができる。進まない波、定在波(ていざいは)だ。

下の絵で、緑(右へ進む波)と橙(左へ進む波)を足したものが黒い波。黒い波をよく見て ── 形のまま上下に伸び縮みするだけで、横には動かない

式でも一行で見える。右向き sin(kxωt)\sin(kx-\omega t) と左向き sin(kx+ωt)\sin(kx+\omega t) を足すと(k=2π/λk=2\pi/\lambdaω=2πf\omega=2\pi f)、

sin(kxωt)+sin(kx+ωt)=2sin(kx)cos(ωt)\sin(kx-\omega t) + \sin(kx+\omega t) = 2\,\sin(kx)\,\cos(\omega t)

右辺は 場所の部分 sin(kx)\sin(kx)時間の部分 cos(ωt)\cos(\omega t) がきれいに分かれている。これが定在波の正体だ。形 sin(kx)\sin(kx) は時間によらず固定で、その全体が cos(ωt)\cos(\omega t) で上下するだけ。だから「進まない」。

2つの特別な場所ができる。

節と腹は、波長 λ\lambda で決まる間隔(半波長おき)にきっちり並ぶ。この「並びが決まっている」ことが、次の共鳴の鍵になる。

音は“粗密波” ── 上下グラフの正体

ここまで波を上下に揺れる線で描いてきたけれど、音はそうじゃない。音は空気の 粗密波(そみつは)、つまり縦波だ。空気の粒は、波の進む向きと 同じ向きに前後する だけで、上下には動かない。粒が混んだ所が (圧力が高い)、すいた所が (圧力が低い)。その密と疎の並びが伝わっていくのが音波なんだ。

waves/longitudinal全画面で開く ↗

じゃあ、ここまでの「上下に揺れる波グラフ」は何だったのか。あれは、縦に揺れている量を 縦軸にプロットした絵 だ。プロットできる量は2通りある。

この2つは同じ波の別の顔で、4分の1波長ずれている。粒の変位がいちばん大きい所では、左右の粒が同じだけ動くので混み具合は変わらない=圧力はゼロ。逆に、変位がゼロの所(粒が動かない所)は、その両側から粒が押し寄せたり逃げたりするので、圧力がそこで最大になる。変位の腹は圧力の節、変位の節は圧力の腹 ── 腹と節がちょうど入れ替わる。この入れ替わりが、すぐ後の共鳴管とフォルマントで効いてくる。

共鳴管:管がえらぶ振動数

管の中に定在波を作るとき、両端の条件が効いてくる。ここで「腹/節」は、何を見ているか(空気の変位・体積速度なのか、それとも圧力なのか)で入れ替わるので、両方そろえて書いておく。

(変位と圧力が「4分の1ずれる」のが、ここで効いている。)

定在波の節と腹は半波長おきに固定されている。だから「両端の条件をちょうど満たす」ような波長 λ\lambda は、とびとびの値しか許されない。その特別な波長(=特別な振動数)でだけ、管は大きく響く。これが 共鳴 だ。下で端を開け閉めし、倍音 nn と管の長さ LL を変えてみて。条件に合う波だけがぴったり収まるのが見える。

絵の「変位/圧力」を切り替えてみて。同じ管・同じ共鳴でも、変位で描くか圧力で描くかで腹と節が入れ替わる(さっきの「4分の1ずれ」だ)。開いた端は変位の腹であり、同時に圧力の節 ── 外の大気とつながっているから、圧力は大気圧に張りついて動けない(節)。閉じた端はその逆になる。

式にすると、両端が同じ(両方開 or 両方閉)の管では

L=nλ2fn=nc2L(n=1,2,3,)L = n\,\frac{\lambda}{2} \quad\Rightarrow\quad f_n = n\,\frac{c}{2L}\qquad(n=1,2,3,\dots)

片側が開・片側が閉の管では

L=(2n1)λ4fn=(2n1)c4L(n=1,2,3,)L = (2n-1)\,\frac{\lambda}{4} \quad\Rightarrow\quad f_n = (2n-1)\,\frac{c}{4L}\qquad(n=1,2,3,\dots)

ここで cc は音速(室温の空気で約 340m/s340\,\mathrm{m/s}、声道の中の体温の空気は少し速くて約 350m/s350\,\mathrm{m/s})。片側開・片側閉の管は、いちばん低い共鳴で「管の長さ=4分の1波長」になるのがポイントだ。

ためしに、声道くらいの L17.5cmL\approx17.5\,\mathrm{cm}、片側開・片側閉、c350m/sc\approx350\,\mathrm{m/s}(声道の温かい空気)でやってみると、f1=c/4L=35000/(4×17.5)500Hzf_1 = c/4L = 35000/(4\times17.5) \approx 500\,\mathrm{Hz}。次は約 15001500、その次は約 2500Hz2500\,\mathrm{Hz} ── と奇数倍に並ぶ。どれも丸めた概算だけど、この 17.5cm17.5\,\mathrm{cm} 前後という長さ、覚えておいて。

フォルマント:声道という「太さの変わる管」

ここまで来れば、もう声に手が届く。

人の声は2段構えでできている。まず 声帯 が震えてブザーのような音を作る。これは1秒に何百回という細かい開閉で、たくさんの倍音を含んだ「ジー」という素の音だ。その繰り返しの速さが 声の高さ(基本周波数 F0F_0 を決める。

そして、その素の音が 声道 ── 声帯から唇までの、長さおよそ 17.5cm17.5\,\mathrm{cm} の管 ── を通る。声道は、まずは声帯側が閉・唇側が開の管として近似できる(声門は完全な壁ではないし、唇側も圧力がきっかりゼロになる理想の開放端ではない。でも、ざっくりはこの「片閉・片開」の近似でつかめる)。だから素の音のうち、500500150015002500Hz2500\,\mathrm{Hz} あたりが選ばれて強く響く ── これは管が一様なときの基準値で、実際の母音では、すぐ後で見るように断面積の分布で F1/F2/F3F_1/F_2/F_3 が動く。この 強く響く周波数の山 を、低いほうから フォルマント F1,F2,F3F_1, F_2, F_3 と呼ぶ。

声道の共鳴は、圧力で見るのが自然だ(マイクが拾うのも耳が感じるのも、空気のずれそのものより圧力のほうだからね)。下は同じ 17.5cm17.5\,\mathrm{cm} の管を圧力で描いたもの。声帯側(閉じた端)が圧力の腹、唇側(開いた端)が圧力の節になっている ── さっきの「腹と節の入れ替わり」がそのまま効いている。

waves/tube(圧力)全画面で開く ↗

このあと繋ぐ 声道ラボ も、管の中の共鳴を 圧力 で描いている。だから唇の側(開いた端)が圧力の節(谷)になっていても驚かないで ── 変位ではなく圧力を見ているからだよ。

母音の違いは、ここで決まる。舌や顎を動かすと、声道という管の「太さ」が場所ごとに変わる。一様な太さの管なら(このモデルでは)500/1500/2500500/1500/2500 あたりだけれど、どこかにくびれを作ると、その位置に応じて F1F_1F2F_2 が上下にずれる。

つまり母音は、(F1,F2)(F_1, F_2) という2つの共鳴周波数の組で地図にできる。これが音声学でいう母音の正体だ。

高さ F0F_0 と、音色(どの母音か)は別系統。声帯の振動が速さ=高さを、声道の形が共鳴=母音を決める。だから同じ「あ」を高くも低くも歌える ── 高さ(声帯)はそのままに、形(声道)だけ「あ」に保てばいい。逆に高さを固定して口の形だけ変えれば「あ・い・う」と渡っていける。

「管の太さを実際に場所ごとに変えて、共鳴周波数(フォルマント)が動くのを数値で確かめたい」── そこまで来たら、声道を細かく輪切りにして共鳴を解く 声道ラボ で遊んでみて。管を上下にドラッグして F1/F2/F3F_1/F_2/F_3 が動くのが見えるし、F1F_1F2F_2 の地図に母音が並ぶのも触れる。

▶ 声道ラボで母音を解いてみる ↗

その奥 ── 「管の断面積の並びから共鳴周波数をどう計算しているのか」── は、波の反射を端から端まで掛け合わせていく(伝達行列という)少し重い計算になる。そこはツールの中に逃がしてある。気になったら覗いてみるといい。ここでは「太さの変わる管が、特定の周波数を選んで響かせる。その山がフォルマント」── これだけ持って帰ってくれれば十分だよ。

まとめ:一本の道

「あ」と「い」の違いは、結局、口という小さな管が選ぶ2つの共鳴周波数の違いだった。波の速さから始めて、ちゃんとそこまで繋がっているんだ。