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チョークの言い分 ── 電圧源を電流源に変える、地味な巻線の四つの仕事

2026.07.23

コレクタ共振回路の入口に座っている、ただのコイル。第1回から舞台の入口でずっと働いてきたのに、その言い分をちゃんと聞いたことがなかった。仕事は四つある——電流をならす、タンクの山を電源から守る、高周波を電源線に返さない、そして、エネルギーを抱え込む。リップルの式に出てくる謎の係数0.105の出どころから、「大きいほど良い」の罠まで。

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第3回の終わりに、後回しにした約束があった。並列タンクの電圧の山を電源が押し潰さないように隔離しているのが入力チョークだ、と言ったきり、その言い分をちゃんと聞いていない。

チョークは、この章でいちばん地味な部品だ。ただのコイルで、スイッチのような賢さも、タンクのような主役感もない。でも第1回のπVinの導出を思い出してほしい——あの綺麗な結果は「チョークの平均電圧がゼロ」という一行から出発した。回路の入口に座っているこの巻線が、実は舞台の成立条件を握っている。

四つの仕事

チョークの仕事を並べると、少なくとも四つある。

一つ目:入力電流をならす。 スイッチング周期のあいだ、電流をほぼ一定に保つ。これが「電流給電」の正体で、v=Ldi/dtv = L\,di/dt を裏返せば、LL が大きいほど同じ電圧変動に対して電流が動かない、というだけの話だ。

二つ目:タンクの山を、電源から隔離する。 並列タンクの端子には πVin\pi V_{\mathrm{in}} まで振れる電圧の山が立つ。低インピーダンスの電圧源をそこへ直結したら、山は電源に押さえ込まれて潰れる(第3回の表の話)。チョークはタンクと電源のあいだに高いインピーダンスとして立ちはだかり、山を守る。

三つ目:高周波を電源線に返さない。 タンクの高周波電流が入力配線へ漏れ出せば、配線はアンテナになる。チョークは高周波にとっての壁でもある。

四つ目は、あとで話す。 これは仕事というより、代償に近い。

謎の係数 0.105 ── リップルの出どころ

チョーク電流は「ほぼ」一定で、完全に一定ではない。どれくらい揺れる(リップルする)のかは、チョークにかかる電圧を眺めると計算できる。

チョークの片端は VinV_{\mathrm{in}} に、もう片端はセンタータップに繋がっている。第1回でやった通り、センタータップ電圧は理想波形でピーク πVin/2\pi V_{\mathrm{in}}/2 の全波整流正弦波だ。つまりチョークにかかる電圧は

vch(t)=Vin[1π2sinωt]v_{\mathrm{ch}}(t) = V_{\mathrm{in}}\left[1 - \frac{\pi}{2}\left|\sin\omega t\right|\right]

── 「一定のDCと、脈打つ波形の」がチョークの取り分になる。

Vin(一定・破線) センタータップ電圧(脈打つ) 交差する所で電流の増減が入れ替わる
チョークにかかる電圧=赤い破線と緑の波形の差。波形がVinより下にいる間は電流が増え、上にいる間は減る。

波形が VinV_{\mathrm{in}} より下にいる間、チョーク電圧は正で電流は増える。上にいる間は減る。交差点は sinθ=2/π\sin\theta = 2/\pi の場所で、そこが電流の山と谷になる。この電圧を交差点から交差点まで積分すると、ピーク・ツー・ピークのリップルが出る。

ΔIch,pp0.105Vinf0Lch\Delta I_{\mathrm{ch,pp}} \simeq 0.105\,\frac{V_{\mathrm{in}}}{f_0\,L_{\mathrm{ch}}}

0.105という半端な数字は、暗記するものではなくて、「sin|\sin| 波形とDCの差を、交差点のあいだで積分した面積」の値だ(πcosθ1π+2θ1\pi\cos\theta_1 - \pi + 2\theta_12π2\pi で割った程度のもの、と言えば出どころの気配は伝わると思う)。実際、この章のシミュレータで数値積分した波形のリップルは、この係数と0.02%まで一致した——教科書の数字を自分の積分で確かめられるのは、気持ちがいいものだよ。

チョーク電流 ich(t) ── 平均のまわりを、周期の2倍で脈打つ 山と谷の差=ΔI
上の電圧を積分した結果のチョーク電流。DCに小さなリップルが乗る。この振幅が0.105·Vin/(f₀L)。

式の形で覚えてほしいのはひとつだけ——リップルは LchL_{\mathrm{ch}}反比例する。チョークを10倍にすればリップルは1/10。じゃあ大きいほど良いのか? というのが後半の話だ。

飽和 ── 名札のインダクタンスを信じすぎない

その前に、現物のコイルの注意をひとつ。チョークには大きな直流が流れていて、リップルはその上に乗る小さな波だ。コアの磁束はDC分でずっと押し上げられているから、ピーク電流 Idc+ΔI/2I_{\mathrm{dc}} + \Delta I/2 でコアが飽和しないことを確かめる必要がある。飽和したコイルはインダクタンスを失って、ただの電線になる——電流をならす仕事も、山を守る仕事も、その瞬間に放棄される。

部品の名札に書いてあるインダクタンスは、たいてい無負荷の値だ。DCを流したときにどこまで保つか(直流重畳特性)は別のグラフに書いてある。名札だけで選ぶと、いちばん働いてほしい瞬間に脱落する。

大きすぎるチョークの罪 ── 四つ目の仕事の正体

リップルだけ見れば、チョークは大きいほど良い。でも代償が並ぶ。

巻線が増えれば抵抗と体積が増える。応答が鈍くなって、電源投入から発振が立ち上がるまでが遅くなる。自己共振周波数が下がって、高い周波数ではもうインダクタとして働かない。そして、いちばん重いのがこれだ——

Wch=12LchIch2W_{\mathrm{ch}} = \frac12 L_{\mathrm{ch}} I_{\mathrm{ch}}^2

チョークはエネルギーを抱え込む。 これが四つ目の「仕事」の正体で、平常時は電流をならす立役者の顔をしているが、回路が急に止まった瞬間、この 12LI2\tfrac12 LI^2 は行き場を失う。電流を無理に断てばチョークは電圧を跳ね上げてでも流れを守ろうとする(v=Ldi/dtv = L\,di/dt の裏の顔)。大きなチョークほど、抱えたエネルギーの逃げ道——還流の経路や保護——を設計しておく必要がある。

つまり「一次インダクタンスの5倍」のような倍率の目安は、あくまで出発点だ。リップル、飽和、損失、立ち上がり、そして故障時のエネルギー。この五つが同時に閉じたところが、そのチョークの適正サイズになる。地味な部品の選定が、案外いちばん多面的だったりする。

声に出るとき ── チョークが「うなる」

ところで、実機のチョークやトランスが「ジー」と鳴くのを聞いたことがあるかもしれない。あれは比喩ではなく物理だ。鳴き声の源は主に2つ——コアの磁歪(磁性体は磁束が通ると周期的にごくわずか伸び縮みする)と、巻線に働く力(電流が自分の作る磁場から受ける力で、線が周期的に押し引きされる)。どちらも電流波形のリズムで部品を機械的に揺らす。

この回路のリップルは 2f02f_0——数十kHz級だから、普段は可聴域の上で人間には聞こえない。聞こえるとしたら、調光のバースト制御や負荷変動で電流の包絡線に可聴域のゆっくりした変調が乗ったときだ。つまりあの音は、電流波形の低い周波数成分がそのまま機械振動に翻訳されたもの——チョークの言い分が、文字どおり声に出ている。異音がしたら、それは「電流が設計どおりに流れていない」という報告だと思って、波形を見にいくのがいい。

遊び場 ── 言い分を、つまみで聞く

下の遊び場は第1回のシミュレータの兄弟で、主役のつまみをチョーク LchL_{\mathrm{ch}} に譲ってある。

第1回から続けて触ると、「あの綺麗なπVinは、この地味な巻線が現場を支えていたから成立していた」が繋がると思う。

次回は、いよいよこの章の後半の山に入る——トランス。巻数比の箱だと思っていたあの部品が、実は磁束と電界の同居する空間で、漏れも容量も「寄生」ではなく住人だという話。