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回すと、増える ── 5回対称は、なぜ無い

2026.06.15

n回対称は点をきれいな多角形に並べる。でも、周期結晶の並進と握手できるのは 1・2・3・4・6 回だけ。5回も7回もダメ。その線引きは、たった一つの条件『2cosθ が整数』から出てくる ── それを、回しながら確かめる。

▶ n回対称と格子 ── 全画面で回す

今回の持ち帰り:周期格子と両立できる回転数は、1・2・3・4・6 回に限られる。

前回 は、対称操作が点をコピーすること、そのコピーには第1種(向きそのまま)と第2種(右手↔左手)の2通りがあることを掴んだ。今回は、第1種の代表 ── 回転 にしぼって、こう問う。

回すと点はいくつ増える? そして、その増え方は 並進と握手できる?

この章ではずっと、周期結晶 ── 同じ模様が並進でくり返す結晶 ── を考えている。雪は六角形。多くの周期結晶が、3回・4回・6回の回転で自分に重なる。でも、5回対称の周期結晶は ── ひとつも無いんだ。正五角形のように 72° 回すとぴったり重なる周期結晶は、存在しない。4 と 6 は許されるのに、なぜ 5 は弾かれるのか。(先に正直に言っておくと、弾かれるのは 5 だけじゃない ── 7 回も 8 回も、それ以上も無い。許されるのは 1・2・3・4・6 回だけだ。ただ、許される 4 と 6 にはさまれた 5 が、いちばん不思議で有名な“禁制”だから、まずはそこを入口にする。)今日はそれを、ちゃんと底まで追う。

n回回すと、n個に並ぶ

点を一つ置いて、中心のまわりに 360°/n360°/n ずつ回す。すると点は、正 n 角形の頂点にきれいに並ぶ。これが n回対称nn は「回す回数」=並ぶ点の数だから、2,3,4,2,3,4,\dots正の整数。2.5回対称のような半端は無いよ)。2回なら向かい合う2点、3回なら正三角形、6回なら正六角形。回転は第1種だから、三脚は裏返らない ── ただ、くるくる回って増えていく。

ここまでは、どんな n でもできる。星型の模様を描くだけなら、5回でも7回でも何の問題もない。問題は、その模様を 並進でくり返して、平面をすき間なく敷きつめられるか ── つまり、周期結晶の格子に乗せられるか、なんだ。

鍵は「2cosθ が整数」

ここで、前回の約束が効いてくる ── 同じ模様が、並進(平行移動)でどこまでもくり返す、というあれだ。その「ずらし方の足場」が 格子(規則正しく並んだ点の並び)だったね。難しい式は要らない。格子の絵だけで、結論まで行けるんだ。

格子のいちばん短い並進ベクトルを aa としよう ── 前回の言葉でいう「ずらし方」のうち、隣の格子点へのひと足 だ。ここが今回の急所。回転が この結晶(格子ごと)の対称操作 だということは、回しても結晶全体は自分にぴったり重なる、ということ。なら、格子点は格子点へ移らなければならない。だから aa を回した先も、また格子点の上でないといけないんだ。もし中途半端な ── どの格子点でもない ── 所に落ちたら、回した模様は元と重ならない。それはもう「対称」じゃない、ということになるからね。

そこで、aa+θ+\theta だけ回した矢印 aa' と、θ-\theta だけ回した矢印 aa'' ── この二本を足してみる。すると和は、ちょうど aa と同じ向き(または真逆の向き)の、aa に平行なベクトルになって、ベクトルとして

a+a=(2cosθ)aa' + a'' = (2\cos\theta)\,a

と書ける(下のラボで、この aa'aa'' と、その和の先端が動くのを、実際に回して見られる)。これも aa の方向に並んだ格子の並進だから、aa整数倍 でなければならない。2cosθ2\cos\theta が負なら逆向きの整数倍、という意味だ。だから、

2cosθ=整数.2\cos\theta = \text{整数}.

たったこれだけが、すべてを決める。θ=360°/n\theta = 360°/n を入れて、2cosθ2\cos\theta が整数になる nn を拾うと ──

nnθ\theta2cosθ2\cos\theta周期結晶で許されるか代表格子
1360°2(恒等・制限なし)
2180°−2斜交格子
3120°−1六方格子
490°0正方格子
572°0.618…
660°1六方格子
751.4°1.24…

2cosθ2\cos\theta が整数になるのは {2,1,0,1,2}\{-2,-1,0,1,2\}、つまり n = 1, 2, 3, 4, 6 だけ。これを 結晶学的制限定理 という。5 は、2cos72°0.6182\cos72° \approx 0.618 が整数でないから、弾かれる。n7n \geq 7 も同じだ。nn が大きいほど θ=360°/n\theta=360°/n は小さくなって、1<2cos(360°/n)<21 < 2\cos(360°/n) < 2 ── 1と2のあいだの半端な数になり、整数にはならない。だから n=5n=5 も、77 以上も、ここで外れる。

グラフにすると、一目だ。2cosθ2\cos\theta の曲線が 整数の横線にちょうど乗る ところだけが、許される回転数になる。

210−1−2 n=1n=2n=3n=4n=6 n=5 2cosθ θ →
2cosθ の曲線。整数の横線にちょうど乗る(●)のが許される回転で、n=1・2・3・4・6。5回(○)は線のあいだに浮く ── 7回以上も同じく、もう線には届かない。

一つ補足。2cosθ2\cos\theta が整数というのは、その回転が格子と両立し うる ための条件 ── 許される回転数の 候補 を、この5つに絞る条件だ。逆に、ある格子が実際にその回転対称を 持つ かどうかは、格子の形による。正方格子は4回、三角格子(六方格子)は6回や3回を持つが、ただの斜交格子は2回どまり。「条件を満たす」ことと「実現する」ことは、別、ということになるね。

行列で見ると、一行

前回 行列は「掛けて足すだけ」だと書き下した。その目で見ると、いまの話は一行で言える。

回転を表す行列は、角度 θ\theta を使って

R(θ)=[cosθsinθsinθcosθ]R(\theta) = \begin{bmatrix} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{bmatrix}

と書ける(点 (x,y)(x,\,y) を反時計まわりに θ\theta だけ回す表だ。(x,y)(x,\,y) はもとの点、写った先を (x,y)(x',\,y') と書く。θ=90°\theta=90° を入れると [0110]\begin{bmatrix}0&-1\\1&0\end{bmatrix}、つまり x=y, y=xx'=-y,\ y'=x ── 前回の (x,y)(y,x)(x,y)\to(-y,x) と一致する)。その左上と右下を足したもの ── 対角成分の和 ── を トレース といって、ここでは cosθ+cosθ=2cosθ\cos\theta + \cos\theta = 2\cos\theta

ここで、座標を二通り用意しておくと話が早い。直交座標は、いつもの直角の x・y。格子座標は、格子の並進ベクトルそのものを目盛りに選んだ斜めの座標 ── この目盛りで見ると、格子点は必ず整数の番地になる。同じ回転でも、直交座標で見れば R(θ)R(\theta)(中身は cos,sin\cos,\sin)、格子座標で見れば成分がぜんぶ整数の表になる(格子点を格子点へ写すから、中途半端な数が出ない)。

そして トレースには、嬉しい性質がある。座標の取り方(基底)を変えても、トレースの値は変わらないんだ ── 座標は私たちが勝手に引いた目盛りなのに、対角の和だけは、どの目盛りで測っても同じ数になる。これを「基底変換の不変量」という。いわば、操作そのものに付いた “指紋”のような数。なぜそうなるかは少し深い話なので、ここでは立ち入らない。いま効いてくるのは、「座標に依らない」という一点だけ だ。だから ──

この二つは同じ値でなければならない。よって 2cosθ2\cos\theta は整数。さっき「aa を ±θ 回して足す」で絵で見たことと、まったく同じ結論だ。絵と式は、同じことを別の言葉で言っているだけなんだよ。

回して、確かめる

式だけだと「ふうん」で終わってしまう。だから触ろう。下のラボは、この「2cosθ が整数か」を、目で見える形にしたものだ。

格子の基本ベクトル aa+θ+\thetaθ-\theta に回した二本(aa'aa'')を足すと、ちょうど aa に平行な (2cosθ)a(2\cos\theta)\,a になる。回転が結晶の対称である以上、回した先も格子の上 ── だからこの和も格子の並進、つまり 整数 × a で、格子点に乗っていないといけない。n を選んで、その先端が格子点に 戻るか/間に落ちるか を見て。「対称であること」が「ちょうど格子点に戻ること」に直結しているのを、ここで目で確かめてほしい。

2, 3, 4, 6 では、和がきれいに格子点へ戻る(◯)。でも 5 にした瞬間、先端は格子点の あいだ に落ちる(✕)。これが「5回対称は並進と握手できない」の正体だ。正五角形が床をすき間なく敷きつめられない、という子どもの頃の感覚 ── あれと、根はまったく同じ。

「絶対に無い」のか?

ここで、言葉を慎重に選びたい。よく「5回対称は絶対に現れない」と言われる。でも、正確じゃない。弾かれたのは「5回対称 と並進周期性 の両立」であって、5回対称そのものではないんだ。

並進周期性という約束を手放したらどうなる? ── 周期的にくり返しはしないのに、長い距離にわたってきちんと秩序がある、そんな並びを許したら? 実は、5回対称はそこで堂々と戻ってくる。それが 準結晶(quasicrystal)。準結晶は「結晶でないもの」ではなく、並進周期性はないが、長距離の秩序を持つ非周期結晶 だ。1982年に観測され、1984年に発表された。発見者のシェヒトマンは長いあいだ受け入れられなかったけれど、2011年にノーベル化学賞を受けた。「禁制」は、前提を一つ外すと破れる。

その話は、この道のいちばん最後にとっておく。(もっと読みたい人へ → 結晶に五角形がない理由

次は、並進が混ざる

ここまでは「純粋な回転」だけを見てきた。でも周期結晶の対称には、もっと面白いやつがいる。回しながら、軸の方向にスッとずらす(らせん軸)。鏡に映しながら、面の中でずらす(映進面)。回転や鏡映に、最初の主役 ── 並進 ── が混ざってくる。

次は、その「混ざった操作」を見にいこう。