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らせんと映進 ── 並進が、混ざる

2026.06.15

回転や鏡に、最初の主役『並進(ずらし)』が混ざると、新しい対称が生まれる。鏡+半歩の映進は、砂浜の足あとそのもの。回転+ずらしのらせんは、ネジや螺旋階段。操作を『行列をかけて、ずらしを足す』X'=WX+w という形で書き下し、2回・n回くり返すと整数の格子並進に戻ることを確かめる。

▶ 映進 ── 足あとの軌跡を全画面で

今回の持ち帰り:映進とらせんは、点を動かす操作(回転・鏡)に「分数の並進」が混ざった対称操作。くり返すと整数の格子並進に戻る。

前回 は、純粋な回転だけを見た。でも周期結晶の対称には、もっと面白いやつがいる。回転や鏡に、この章の最初の主役 ── 並進(ずらし) ── が混ざってくるんだ。

いちばん身近なのが 映進(glide)鏡に映して、同時に半歩ずらす 操作だ。砂浜の足あとを思い出してほしい。左足、右足、左足…。あれは、ぜんぶ映進でできている。

鏡だけでも、並進だけでもない

下のラボで、3つの操作を切り替えてみて。

「鏡だけ」だと、両足がその場で向かい合う ── 気をつけの姿勢で、前に進まない。「並進だけ」だと、同じ左足がただ並ぶ ── ケンケンだ。どちらも、歩いた跡には見えない。

ところが、その二つを 同時に やると ── 鏡で裏返しながら、半歩ずらす ── とたんに、自然な足あとの軌跡になる。これが映進だ。鏡だけでも、並進だけでも模様は重ならないのに、二つを混ぜた一個の操作としてなら重なる。 映進は、それ自身が一人前の対称操作なんだ。

操作を、書き下す

ここで、操作が実際に「どんな計算をしているか」を、掛け算と足し算で書き下しておこう。難しくない。やることは2つだけだ。

対称操作はぜんぶ、こう書ける。

X=WX+wX' = W X + w

記号の意味を、毎回ちゃんと書いておくね。

ここで、ww について一つ大事なことを言っておく。ww好き勝手なずらしではない。映進やらせんのような操作の ww は、格子の並進ベクトルの きまった分数 ── たとえば「半分」── になっている。こういうのを 分数並進 という。X=WX+wX'=WX+www は、その「分数並進を含む対称操作の、並進の部分」だと思ってほしい。整数ぶんの並進は格子そのものが受け持つから、ここで効くのは、その端数のほうなんだ。

計算は、本当にただの四則演算だ。点 X=(x,y)X=(x,\,y) を入れて、まず WW をかける ── これは「行き先のメモにしたがって、掛けて、足す」だけ。たとえば「90°回転」の W=[0110]W=\begin{bmatrix}0&-1\\1&0\end{bmatrix} なら、

x=0x+(1)y=y,y=1x+0y=xx' = 0\cdot x + (-1)\cdot y = -y, \qquad y' = 1\cdot x + 0\cdot y = x

つまり (x,y)(x,\,y)(y,x)(-y,\,x) へ移る ── たしかに 90°回転だ。行列とは、この「各成分を、掛けて、足す」をひとまとめに書いた表にすぎない。

映進なら、WW の行き先(たとえば上下を反転する (x,y)(x,y)(x,\,y)\to(x,\,-y))、そして ww半歩ぶん のずらしが入る。「鏡で裏返す計算をして、そこに半歩を足す」── 足あとが、この一行で出てくるんだ。

具体的に、xx 方向に半歩ずらす映進 gg を成分で書くと、こうなる。

g: (x,y)  (x+1/2, y)g:\ (x,\,y)\ \longrightarrow\ \left(x + 1/2,\ -y\right)

yy を裏返して(鏡)、xx に半歩を足す(並進)」── ただ、それだけだ。

2回・n回で、整数の並進に戻る

映進とらせんには、きれいな性質がある。何回かくり返すと、ちょうど整数ぶんの格子並進に戻る んだ。

映進をもう一度やってみよう。半歩×2=1歩、裏返り×2=表に戻る。だから 映進を2回くり返すと、鏡の効果は消えて、ちょうど“ひと並進”だけが残る。左→右→左で、元と同じ左足が、ぴったり1歩先に出る。

さっきの g:(x,y)(x+1/2,y)g:(x,\,y)\to(x+1/2,\,-y) で、実際にもう一度かけてみよう。

g2: (x,y)  (x+1/2,y)  (x+1, y)g^2:\ (x,\,y)\ \longrightarrow\ \left(x+1/2,\,-y\right)\ \longrightarrow\ \left(x+1,\ y\right)

yy の裏返しは2回で打ち消し合って消え、半歩 × 2 = ちょうど 1 並進だけが残る。記号で書けば、映進を gg として

g2=(整数の格子並進)g^2 = (\text{整数の格子並進})

ということになる。鏡を2回かけると元に戻るのと、同じ理屈だね。

立体の らせん軸(screw) も同じ仲間だ。軸のまわりに回しながら、その軸の方向へスッとずらす。ネジの溝、らせん階段、つるの巻きひげ ── ぜんぶこれ。映進が「鏡 + ずらし」なら、らせんは「回転 + ずらし」。式で言えば WW が回転、ww が軸方向の分数並進で、X=WX+wX'=WX+w という形はまったく同じ。

らせんは、回転の回数ぶんくり返すと、軸方向の整数並進に戻る。たとえば 212_1 らせん(180°回しながら半分ずらす)は、2回で軸方向に1並進。313_1 らせんは3回で1並進、414_1 なら4回、616_1 なら6回 ── 「何回で1並進に戻るか」が、その名前の数になっている。映進の g2g^2 と、まったく同じ呼吸だ。

次は、並進そのものが増える

ここまでは、回転や鏡に並進を「少し」混ぜてきた。次は、並進そのものに目を向ける。実は、周期結晶の格子には「角の点」だけじゃなく、面の真ん中や、立方体の中心にも、もう一組の格子点が隠れている ことがある。それを足すと、模様の数が一気に2倍、4倍になる ── Fm-3m が192という数を持つ理由は、そこにあるんだ。

次は、その 心(centering) の話。