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dx を v dt に書き換えていい理由 ── “約分”の正体は、置換積分

2026.06.25

仕事の式の途中で出てくる dx = (dx/dt)dt = v dt という書き換え。dt を約分しているように見えて、ちょっと反則っぽい。でもこれは反則じゃなく、置換積分(変数変換)そのものだ。ライプニッツの記法が、なぜあんなに“約分が効く”のかも含めて、ゆっくり開く。

② 電位 で仕事を運動エネルギーに直すとき、途中でこんな書き換えをした。

dx=dxdtdt=vdtdx = \frac{dx}{dt}\,dt = v\,dt

dxdx は少し進んだ距離だけど、それは少しの時間 dtdt に進んだ距離でもある」と言って、dxdt\dfrac{dx}{dt}(=速度 vv)を掛けて dtdt に化けさせた。さらにこの後、dvdt\dfrac{dv}{dt}dtdt約分 されて消えた。

ここ、少し反則っぽく感じた人がいると思う。dxdxdtdt を、まるで「小さな数」みたいに掛けたり約分したりしている。── でも、これは反則じゃない。ちゃんと名前のついた、正しい操作だ。その正体は 置換積分(変数変換) だよ。この回は、そこだけを腰を据えて開く。

まず、置換積分という道具

積分には「変数を取り替える」やり方がある。f(x)dx\int f(x)\,dxxx が、別の変数 tt の関数 x(t)x(t) で書けるとき、こう取り替えられる:

f(x)dx=f(x(t))dxdtdt\int f(x)\,dx = \int f\big(x(t)\big)\,\frac{dx}{dt}\,dt

これが 置換積分 だ。xx の世界での足し算を、tt の世界での足し算に翻訳している。ポイントは右辺に出てくる dxdt\dfrac{dx}{dt} ── これは「tt が少し進むと xx がどれだけ進むか」という換算レートで、これを掛けないと、刻みの幅がズレてしまう。

なぜこの式が成り立つかは、微分積分の基本定理と連鎖律(合成関数の微分)から出る。原始関数を FF(つまり F=fF'=f)とすると、合成関数 F(x(t))F(x(t))tt で微分すると連鎖律で F(x(t))dxdt=f(x(t))dxdtF'(x(t))\cdot\dfrac{dx}{dt} = f(x(t))\dfrac{dx}{dt}。だから右辺を tt で積分すると F(x(t))F(x(t)) が戻り、左辺の fdx=F(x)\int f\,dx = F(x) とちゃんと一致する。── 天下りの規則じゃなく、連鎖律の言い換えなんだ。

“約分”は、その置換のことだった

では、さっきの dx=vdtdx = v\,dt に戻ろう。これは置換積分の式の中の dxdxdtdtdx \to \dfrac{dx}{dt}\,dt の部分そのもの だ。

仕事 W=FdxW=\int F\,dx を考える。物体の位置 xx は時間の関数 x(t)x(t) で、物体が x0x_0 から x1x_1 まで動くあいだ、時間は t0t_0 から t1t_1 まで進む。ここで xx から tt へ変数を取り替えると、置換積分の規則どおり dxdxdxdtdt=vdt\dfrac{dx}{dt}\,dt = v\,dt に変わり、積分の範囲も xx から tt に移る:

W=x0x1Fdx=t0t1FvdtW=\int_{x_0}^{x_1} F\,dx = \int_{t_0}^{t_1} F\,v\,dt

dx=vdtdx = v\,dt と書いて入れ替える」という見た目の操作は、この変数変換を 手短にやっているだけ なんだ。dxdx を「小さな距離」、dtdt を「小さな時間」と思って dx=vdtdx=v\,dt と書くと、ちょうど正しい置換と同じ式になる。

時間 t → dt dx = v × dt 少しの時間 dt に 速さ v で進む距離
$dx=v\,dt$ の中身は、ただの「距離=速さ×時間」だ。少しの時間 $dt$ のあいだに、速さ $v$ で進む距離が $dx$。換算レート $v=dx/dt$ を掛けることが、積分の変数を $x$ から $t$ へ正しく移す“のりしろ”になっている。

dt が消えるのも、もう一回の置換

②ではこの後、運動方程式 F=mdvdtF=m\dfrac{dv}{dt} を入れて、こうなった:

W=mdvdt(vdt)=mvdvW=\int m\frac{dv}{dt}\,(v\,dt) = \int m\,v\,dv

dvdt\dfrac{dv}{dt}dtdt が約分されて、dvdtdt\dfrac{dv}{dt}\,dtdvdv になっている。これも同じ手品 ── こんどは tt から vv への置換だ。速度 vv も時間の関数 v(t)v(t) だから、tt から vv へ変数を取り替えると dv=dvdtdtdv = \dfrac{dv}{dt}\,dt。これを使えば、tt の世界の積分が、vv の世界の積分 mvdv\int m\,v\,dv に移る。あとは vdv=12v2\int v\,dv=\tfrac12 v^2 で、運動エネルギー 12mv2\tfrac12 mv^2 が出てくる。

約分しているように見えるところは、全部「変数の取り替え(置換積分)」だ。

dx,dt,dvdx,\,dt,\,dv を分数のように掛けたり消したりできるのは、その一回ごとが、裏で置換積分の規則に乗っているからなんだ。

なぜ、こんなに約分が“効く”のか

ここがいちばん面白いところだと思う。── ライプニッツが作った dxdt\dfrac{dx}{dt} という記法は、「分数みたいに約分すると、ちょうど正しい置換積分になる」ように、わざとデザインされている

だから dxdtdt\dfrac{dx}{dt}\cdot dt を「dtdt を約分して dxdx」と書いても、置換積分の規則と一字一句ずれない。記法のほうが、規則を覚えてくれているわけだ。これは、ただ便利というだけじゃなくて、良い記法は、正しい操作を“自然な手つき”に翻訳してくれる という見本になっている。私は、こういう「記号が考えを肩代わりしてくれる」瞬間が、けっこう好きなんだ。

正直に、端っこも置いておく。dxdxdtdt は、厳密には「ゼロでない小さな数」ではない(本当にゼロで割るような操作ではない)。約分が効くのは、それが極限と連鎖律で支えられた置換のショートカットだから、というのが正確なところだ。物理で出てくる滑らかな運動(x(t)x(t) がなめらかで、行きつ戻りつしない)なら、この手つきはいつでも正しい答えを返す。だから安心して約分していい ── ただ、その下では毎回、置換積分が静かに働いている。それだけ覚えておけば十分だよ。

(「dxdx って結局なんなの?」をもっと深く追うと、微分形式という別の入り口に出る。そこでは dxdx は“小さな数”でなく、長さを測るための道具そのものになる ── けれど、それはまた別の回の話にしておこう。)