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流れても、たまらない ── 電流と連続の式

2026.06.29

④で『電流のまわりに磁場が渦を巻く』と予告した。じゃあ、その電流とは何で、どんな決まりに従っているのか。鍵は拍子抜けするほど素朴で ── 電荷は、消えも湧きもしない。この一つの事実を、流れの言葉に翻訳すると連続の式 ∂ρ/∂t+∇·J=0 になり、回路の言葉に翻訳するとキルヒホッフの電流則になる。同じ保存則の、二つの顔だ。そしてこの式が、後でマクスウェルにアンペールの法則を直させることになる。

▶ 節点と連続の式のラボを全画面で開く

の終わりに、磁場の扉の前へ立った。電流のまわりには磁場が渦を巻く ── Bdl=μ0I\oint \vec B\cdot d\vec l = \mu_0 I、アンペールの法則。マクスウェルの遊輪では、回転のムラを転がっていく小さな車が「電流」だった。

でも、よく考えると、私たちはまだ 電流そのものをちゃんと開けていない。磁場の話に入る前に、一段だけ寄り道しておきたい ── 電流とは何を測った量で、どんな決まりに従っているのか。

結論を先に言うと、その決まりは、拍子抜けするほど素朴だ。電荷は、消えも湧きもしない。 ただ流れて、場所を移すだけ。たったこれだけの事実が、流れの言葉では 連続の式になり、回路の言葉では キルヒホッフの電流則になる。同じ一つの保存則の、二つの顔だ。今日は、その二つの顔が同じ横顔なんだ、というのを見ていく。

1. 電流とは ── 電荷の、流れ

まず電流 II から。これは、ある断面を 1秒あたり、どれだけの電荷が通り抜けるかだ。

I=dQdtI = \frac{dQ}{dt}

川でいえば「橋の下を、1秒あたり何リットルの水が通るか」。電荷という“水”が、導線という“川”を流れていく量 ── それが電流だ。単位はアンペア(1A=1C/s1\,\mathrm{A} = 1\,\mathrm{C/s})。

ここで、③や④で電場を「各点で決まる量」として見たのと同じ目で、電流も“場所ごと”に見ておくと、後がきれいになる。断面の太さで割って、単位面積あたり・向きつきにしたものを 電流密度 J\vec J と呼ぶ。J\vec J は「その点で、電荷がどっちへ、どれだけ密に流れているか」を指す矢印で、断面 SS を通る電流は、その面についての流量 ── つまり③のフラックスと、まったく同じ数え方で出てくる:

I=SJdAI = \int_S \vec J\cdot d\vec A

そう、この「面を通って、どれだけ流れ込む/出ていくか」は、保存則の章でさんざん数えた フラックスそのものだ。電場 E\vec E のときは“湧き出して広がる流れ”の比喩だったけれど、電流 J\vec J では文字どおり、電荷という実体が流れている。比喩がいちばん素直に効く場所に、戻ってきたとも言える。

2. 電荷は、たまらない ── 連続の式

さて、本題。電荷について、私たちが固く信じている事実が一つある ── 電荷は保存する。 新しく無から湧いたり、ふっと消えたりしない。プラスとマイナスが出会って中和することはあっても、それは打ち消し合っただけで、総量の帳尻はいつも合っている。

この「湧きも消えもしない」を、流れの言葉に翻訳しよう。空間のどこかに、小さな閉じた領域を思い浮かべる。箱でいい。その箱の中の電荷が増えたとしたら ── 中で勝手に生まれたんじゃないなら、外から、境界を通って流れ込んだとしか考えられない。逆に減ったなら、境界から流れ出たぶんだ。

つまり、

(箱の中の電荷の増え方)=(境界から正味で流れ出る量)(\text{箱の中の電荷の増え方}) = -(\text{境界から正味で流れ出る量})

右辺にマイナスがつくのは、「出ていくと中が減る」からだ。これを記号で書くと、箱の中の電荷は ρ\rho(電荷密度)を集めたもの、境界から出る量は J\vec J のフラックスだから:

ddtVρdV=SJdA\frac{d}{dt}\int_V \rho\,dV = -\oint_S \vec J\cdot d\vec A

そして、ここで③ 発散とガウスの道具が、そっくり効く。「閉じた面から正味で出ていく流れ(フラックス)」は、「中身の湧き出し(発散 J\nabla\cdot\vec J)を全部足したもの」に等しい ── あの定理だ。箱をどんどん小さくして、各点の話に絞ると、積分が落ちて、こうなる:

  ρt+J=0  \boxed{\;\frac{\partial \rho}{\partial t} + \nabla\cdot\vec J = 0\;}

これが 連続の式。電磁気でいちばん地味で、いちばん頑丈な式の一つだ。新しい記号 J\nabla\cdot\vec J は身構えなくていい ── いつもの三段で読もう。

言葉で言えば、ただ一行だ。ある点から流れが湧き出して見えるなら、その点の電荷が、その分ちょうど減っている。 湧き出しと、蓄えの減りは、つねに釣り合っている。魔法のように電荷が現れる抜け道は、どこにもない。

保存則の章で「流量(流れる量)」と「状態量(溜まる量)」を分けたのを覚えているだろうか。連続の式は、その二つを一本の等号で結んだものだ ── J\vec J が流量、ρ\rho が状態量。あのとき抽象的に置いた骨が、ここで電荷という肉を得て、立ち上がってくる。

3. 回路でいうと ── キルヒホッフの電流則

ここで、君のいちばんの地元に降りよう。回路だ。

回路の世界では、たいてい「電荷がどこかに溜まっていく」ようなことは起きない(コンデンサは別。これは後で効いてくる伏線だ)。定常状態 ── 電流が時間で変わらず流れ続けている状態 ── では、各点の電荷も一定だから、ρ/t=0\partial\rho/\partial t = 0。すると連続の式は、ぐっと簡単になる:

J=0\nabla\cdot\vec J = 0

「どの点でも、湧き出しゼロ」。これを、導線が出会う一点 ── 節点で読むと、こうなる。節点に流れ込む電流の合計と、流れ出る電流の合計が、ぴったり等しい

Iin=Iout\sum I_{\text{in}} = \sum I_{\text{out}}

これが キルヒホッフの電流則だ。回路を解くとき、当たり前のように使ってきた、あの規則。その正体は、連続の式を、節点という一点で読み下したものだった。

なぜ「当たり前」なのか ── いま分かる。もし流れ込む量と流れ出る量がずれていたら、その差のぶん、電荷が節点に溜まっていく(または減っていく)。でも電荷は湧きも消えもしないし、導線の交差点に電荷がどんどん貯まっていくなんてことは起きない。だから帳尻は、合うしかない。キルヒホッフの電流則は、覚える規則じゃなく、電荷が保存することの、回路での顔なんだ。

下のラボで、その「溜まらない」を手で触ってほしい。節点に何本かの導線をつないで、流れ込む電流を変えてみる。入りと出が釣り合っていないと、節点に電荷が溜まりはじめ(玉が膨らむ)、釣り合うと、すっと定常に落ち着く ── キルヒホッフの電流則が成り立っていないと、電荷保存が破れてしまう、という関係が見えると思う。

4. この式が、後でアンペールを直す

最後に、この地味な連続の式が、なぜ磁場の手前にどうしても要るのか ── その伏線だけ、置いておこう。

④で出したアンペールの法則 Bdl=μ0I\oint \vec B\cdot d\vec l = \mu_0 I には、実は穴がある。コンデンサを充電している最中を考えてみてほしい。導線には電流が流れているけれど、コンデンサの極板の すき間には、電荷は飛び移れない ── そこだけ、電流が途切れている。アンペールの法則を、導線を貫く面で読むか、すき間を貫く面で読むかで、答えが食い違ってしまう。同じ法則が、面の取り方で違う値を出すなら、それは法則として壊れている。

この食い違いを見つけ、そして直したのが、マクスウェルだった。彼は「電荷は保存する=連続の式は絶対に破れない」を手すりにして、アンペールの法則に一項を足した ── すき間では電荷は流れないが、電場が時間とともに増えている。その「変化する電場」を、電流の仲間として数え直せば、つじつまが合う。これが 変位電流だ。④のマクスウェルの遊輪が、最後に変位電流と光まで言い当てた、と書いた ── その変位電流が立つ足場が、この連続の式なんだ。

だから、順番として、磁場(アンペール)の前に電流(連続の式)を置いておきたかった。保存則が先にあって、それを守るために、場の法則のほうが直される。 どちらが上位か、という話でもある ── 私は、この「保存が、法則を縛る」という力関係が、けっこう好きだ。

ついでの灯台を一つ。電荷密度 ρ\rho と電流密度 J\vec J は、相対論ではひとまとめにされて、4元電流 Jμ=(cρ, J)J^\mu = (c\rho,\ \vec J) という一つの量の、時間成分と空間成分になる。すると連続の式 ρ/t+J=0\partial\rho/\partial t + \nabla\cdot\vec J = 0 は、μJμ=0\partial_\mu J^\mu = 0 という、惚れぼれするほど短い一行に畳まれる。ρ\rhoJ\vec J が別々のものに見えていたのは、私たちが一つの時刻に立ち止まって眺めていたから、というわけだ。── これは章の奥(動く電荷・場の運動量)で、もう一度ちゃんと開ける遠くの灯台にしておく。

どこに居るのか

連続の式は、電磁気の「5つの芯」には数えられていない。派手な主役じゃないからだ。でも、章のあちこちで、それを下から支える 通奏低音になっている ── 保存則の章の「流量と状態量」をそのまま電荷で鳴らし、回路ではキルヒホッフの電流則として聞こえ、そしてこの先、アンペールの法則を直して磁場の世界に整合をもたらす。

電荷が湧きも消えもしない、というだけの素朴な事実。それを流れの言葉に翻訳しただけの一行が、回路の規則を支え、やがて場の法則そのものを書き換えていく。地味な式ほど、深い所で効いている ── そういうものだと思う。

さあ、電流が手に入った。次は、その電流のまわりに渦を巻く 磁場へ。④で仕込んだ「循環と curl」の道具と、今日の「電流とその保存」を両手に持って、いよいよ芯の③④ ── アンペールとローレンツ力の世界へ踏み込んでいこう。